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 通話を終えたケータイを陸斗(りくと)はぼんやりと見つめる。「陸斗さんも気を付けてください」真剣そのもの、といった感じで、今紗夏(さな)から告げられたばかりの言葉と改めて向かい合う。  「そんなに親しくない」と言ったものの、コレは世間一般の判断では十分「親しい」事になるだろうし、そうなれば隼也(しゅんや)の価値観でどうなるかなんて。……あんま、考えたくないっすね。冷や汗を感じながら陸斗はケータイをベッドの上へ放り、気を紛らわせようと頬を掻く。  もちろん、それくらいのことで紛れてくれる恐怖じゃないんだけど。 「……いっそ、白状しちまった方が良い感じっすか? 嘘ついてコソコソ会ってる、って思われる方が危ない気もするっす」  1人の家。  通話はしばらく前に終わっているし、誰からの返事もない。分かってはいるものの、確かめるように陸斗は呟いた。  口に出して、なにが1番現実的で安全な策なのかを考える。本当は安全性なんて、オレの中じゃ2の次、3の次なんすけど。  情報は共有した方が良い。  お互いの「嘘」に矛盾を生ませないためにも。だからソレをするなら、先に(みなと)たちに相談、ないしは報告を入れるのが道理だし、陸斗もそのつもりだ。  だから今は電話もメールもする気がない連絡先、隼也のそれをぼんやりと眺める。  果たしてこの男は、「迷子になってるところを助けたのが切っ掛けで親しくなった」なんて嘘、受け入れてくれるだろうか。  陸斗が海里(かいり)と付き合っていたのを、知っている。柚陽(ゆずひ)と付き合っていたことも知ってる。  そんな陸斗を、「紗夏に近寄る大学生は全員警戒対象だ」なんてことを平然と言ってみせた隼也は、どう判断するんだろう。  「親しくなった」なんて報告するの、藪蛇にならないっすか?  キシッ、思わず握り込んでしまった事によるケータイの抗議の声は。  静かな家に響いた着信音で、掻き消された。

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