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 突然の着信音は、それほど爆音というワケでもなかったけれど、陸斗(りくと)の肩を揺らすには十分だった。びくり、なんて、情けないほどに体が震えて。  そんな自分の情けなさに苦笑を浮かべるだけの余裕もなく、おそるおそる目線を落とす。果たして液晶に表示されていたのは、「港」の文字。  (みなと)からだ。多分。波流希(はるき)が代わりに港のケータイを使った、とかじゃなければ。  アレ以来、港とは連絡を、それなりに取っている。マメに、とも言うかもしれない。だから珍しいことでも、なんでもないというのに。  液晶が、特にこのタイミングで隼也(しゅんや)を表示しなかった事に安心しながら。だというのに、消えない不安と震える手のまま画面をタップする。  「もしもし」なんて、そんな有り触れた一言を発する暇さえ、港は与えてくれなかった。 「おい、陸斗! お前、今どこにいる!?」  機械越しにもはっきり分かる、切迫した叫び声が、港の耳に刺さった。  その声音は、なにも言わずとも「非常事態」を表すのに十分で、耳どころか心臓や、肺まで突き刺したらしい。ドクンドクンと心音は煩わしくて、肺はわずかな呼吸にさえ抗議するように鈍痛を訴える。  ケータイを落とさないように、あるいはこのまま自分が倒れてしまわぬための気休めにとケータイを強く握りこむ。とはいえ、手の平には嫌な汗が滲んでいて、効果がありそうにない。 「家、っす、けど……」 「やられた。すぐ病院に来てくれ」

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