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病院では走っていけません、なんて。
そんな当たり前のことさえ抜け落ちたように海里 の病室前まで駆ける。そのまま駆け込まなかったのは、騒ぎを起こして海里を怯えさせたくないからだ。
病室の向こうに、「最悪の事態」が広がっている可能性を考えて、陸斗 は病室の扉に手を掛けた。これ、こんなに重かったっすかね。
電話向こうの港 は冷静とは言い難くて、電話で事情を聞くのは無理だと陸斗は判断した。
だから港が辛うじて正確に伝えた「病院に来い」という指示に従って駆け出したために、陸斗は事情が一切わからない。それこそ、「なにかあった」としか。
あの態度からじゃ、とてもじゃないけど「良いハプニング」なんて思えない。そりゃあ扉を開ければ元気そうな海里がいて、港が「オレの気持ちが分かったか」なんて言ってくれれば、それに越した事はないんだけど。
そんな風に楽観視なんて、できない。
あまり考えたくないけど、思いつく限りの「最悪」と「対処法」を思い浮かべながら、扉を掴む手に力を入れた。入れたはずが、控えめな音を立ててうっすらと、覗けるほどの隙間を作っただけだったけれど。
それでも、そんな隙間でも、港には十分だったらしい。バッと、扉の方を見る。警戒半分、安堵半分。
そして港にとって十分なら、陸斗にとっても情報を得られるのに事足りてしまう。
肌に感じる重くて、ピリピリしてる空気とか。やけに鼻にツンと来る消毒液のにおい。
病院なら消毒液のにおいも当然かもしれないけど、それにしては濃いというか、真新しいし、そこに混ざっているのは、鉄の……血のニオイ。
「やられた。気を抜いたつもりはなかったんだけど……」
グッ、と、港は自分の唇を強く噛む。拳を強く握り締める。皮膚がめくれても気にしないというように。そんなこと、気にしてられないというように。
「港は気にしなくて良いっつーの。実際、たいしたことないって先生も言ってただろ? つーか、お前の方が怪我しそうで心配」
ベッドの上で座る海里の手が、止めるように港へと伸びる。その、相変わらず不健康なほどに青白い肌には、そういう肌の色とは違う白が。
巻かれた包帯が、白塗れの部屋でもはっきりと、やけに映えて見えた。
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