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 (みなと)をちらっと見つめて、海里(かいり)は苦笑を1つ零してみせた。それは強がりとか、そういうのには見えない、感情そのままの苦笑。明らかにへこんでいて、自分を責めている様子の港に「やれやれ」なんて、小さな子供をなだめるような。  海里は苦笑を微笑みに変えると、陸斗(りくと)の方を見つめて「ちょっと、な」小さく呟いた。 「バカやった、っていうか。でもほんと、見た目より大した事ないぜ? 医者も港も大げさなんだよなぁ」 「大げさって、お前、ほんと……マジで、悪い……。もっと気を付けてるんだった」 「港は気遣ってくれてるだろ? これ以上迷惑も掛けられないし」 「迷惑じゃねぇよ!! それだって、お前がバカやったワケじゃないだろ」  話が読めない。読めないけれど、「なにがあったんすか?」なんて聞けるほど図太くないし、そんな空気でもない。ただ、嫌な予感だけはした。  港の動揺具合から、陸斗の心に「嫌な物」は大分巣食っていたけれど。段々と、その嫌な予感は輪郭を持って確信に変わってく。  この包帯が、海里の言うように「バカやった」……なんらかの事故とかじゃないってこと。まあ、それはそれで問題だし、点滴刺したまま転んだ、とかでも滅茶苦茶危ないんすけど、それとは全く種類の違う「危険」。  陸斗の脳にぼんやりと、柚陽(ゆずひ)の顔が浮かぶ。無邪気な笑顔で、海里を刺すくらい、やってのけそうな。ソレが愛だと信じて疑っていない、柚陽の顔。

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