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「こら」  そんな陸斗(りくと)を諭すようなやさしい声が聞こえた。海里(かいり)の声だ。  おそるおそる顔を上げれば、ベッドの上で海里は苦笑を浮かべている。穏やかで、やさしくて。陸斗のことも、(みなと)のことも、隼也(しゅんや)のことさえ責めていないような顔。  大したことない、なんて。やさしすぎる海里の嘘だってことは、ケガの様子を見ていない陸斗にだって分かる。電話越しに聞いた港の慌てきった声や、病室のニオイが、雄弁に語っているのだから。  それなのに、海里は。  平気なフリで、むしろ陸斗たちを心配している海里に、自分の不甲斐なさを感じて。悔しくて、強く掌を握り締める。  握り締めそうになって、はっとして思いとどまった。ソレをすれば、また、海里に気を遣わせるだけじゃないか。なにやってるんすか、オレは。 「港は、ちょっとオレの肩を持ちすぎるんだよ。波流(はる)にいほど過保護でもないけど」 「……アンタは他人ばっか気にし過ぎっす」 「そうか?」 「そうっすよ。普通、ケガさせられたら隼也のことを庇わなくて良いし、オレのことなんて、もっと糾弾してくれて良いんす…………ごめん」  本人を前に、言わなくて良い事までうっかり言ってしまった。  責められて楽になりたいワケではないのに。海里に、あの事を思い出させたいワケでも、もちろんないというのに。  謝ってどうにかなる問題ではないと思いつつ、小声で謝罪する陸斗に、しかし海里は穏やかに微笑むと首を横に振った。まるで「気にしてない」とでも言うように。  事実、 「オレは気にしてないよ」  穏やかな声音で。それでも、きっぱりと。海里は、そう返した。

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