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「オレは陸斗(りくと)が幸せなら、それで良いんだって。あの時陸斗が、自分の幸せのためにした事なら、オレは怒る気なんて更々ねぇんだよ。それこそ文字通り、1ミリも。隼也(しゅんや)のことだって、そう。……いや、さすがに隼也には、「オレを刺して幸せになるならどうぞ」なんて言えないけどな? でも、隼也がオレを刺したのにはオレにも非があるから、隼也だけが責められるのはお門違いだろ」 「陸斗に関してはともかく、隼也については海里(かいり)が悪い事なんてねぇだろ」  海里と港の言葉が、少しだけ遠くに聞こえた。陸斗の中で、今まさに海里から告げられた言葉が、ぐるぐる、渦巻いている。  なんで。なんでそんな事言うんすか。オレはみすみす、この手で幸せを、アンタとの幸せを潰したのに。海里がくれていた幸せを、「いらない」なんて捨ててしまったのに。  隼也のことでまだなにか言い足り無さそうにしている港を、海里はキリがないと判断したのだろうか。「この話はおしまいな」なんて打ち切った。  そして、穏やかに、陸斗を見つめる。まっすぐに。あんな事をした相手にも拘わらず、その両目に一切の怯えの色は宿さないで。  港はまだなにか言いたげにしていたけれど、基本海里の言う事に逆らわない男だ。海里の意図も汲んだのか、「渋々」といった風ではあったけれど、中途半端に開かれていた口を閉じた。 「なあ、陸斗。お前は、今、幸せか? もし、オレに対してそう思ってくれてるならさ。幸せになってくれれば、それで良いから。それがオレへの償いになるとでも思ってさ」  頷けなかった。かと言って、首を横に振れもしない。ただただ呆然と立ち尽くして。辛うじて、唇を噛むのだけは踏みとどまった。 「……1つだけ、図々しい事を言っても良いっすか?」 「もちろん。つーか、お前の言うコトなら図々しいなんて思いもしないよ」  言っても、良いんだろうか。オレに言う資格はあるんだろうか。陸斗はためらう。  海里はやさしいから。陸斗の幸せを願ってくれているから。陸斗が「これがオレの幸せっす」なんて言えば、自分の感情は置き去りに、叶えてくれるのかもしれない。病室でそうした様に。  だけど、それじゃ駄目なんだ。オレは海里を幸せにしたい。ちゃんと償って、海里に心から“そう”思ってもらいたい。  港と波流希(はるき)が許してくれた事は、やっぱりこの場で気持ちを軽くするには、罪悪感をやわらげるには、効果がなくて。 「……オレは、海里を幸せにしたい。もう手遅れかもしれないけど。その役目はもう、オレには望む資格もねぇのかもしれないけど。でも、でも、オレは」  結局、口に出した言葉は、上手く整っていなくて。声も情けなく震えていた。

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