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愛を刃に

「……ありがとな。あそこで、ああ言ってくれて」  席を外していたらしい波流希(はるき)が戻って、しばらく、「オレが陸斗(りくと)を送ってくな」と(みなと)が申し出た事で、今陸斗は港と並んで歩いているのだけれど、礼を言われてしまうと気まずい。  そもそもあの言葉は秘めておくつもりで、口にできる立場ではないと思っていたのに。1度海里(かいり)の幸せを壊しておきながら、「幸せにしたいっす」なんて。  気まずくて、思わず露骨に目を伏せる。「おれは、その」なんて間抜けな言葉しか出てこない。  そんな陸斗に、港は小さく吹き出した。 「ほんと、お前は変わったよな。そんな風に動揺するトコを見ることになるなんて、思わなかった」 「動揺だってするっすよ。あの言葉は本音っすけど、言う資格もない、秘めておくべき感情だって思ってたから」 「言ってくれてありがたかったんだよ。海里はお前の幸せを願ってる。それに、お前と幸せになりたい、ともな。そんな相手からああ言われたら、嬉しいだろ」  その理屈は分かる。その理屈は分かるけれど、それはあくまで「普通の相手」だったら、だ。「恋人」や「片恋相手」だったらだ。  だけど今の陸斗は、その、どれでもない。海里を傷付けた人間だというのに。  陸斗の内心は、港にも簡単に伝わったんだろう。「アイツは、少し度を超えてるんだ」苦笑を浮かべて、呟いた。

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