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 度を超えてる。海里(かいり)を指すのにその言葉はピッタリだろう。文字通り、「やさし過ぎる」んだから。  だから、隼也(しゅんや)のことさえ、庇おうとしたのだ。  自分はそういう立場でないと思いつつも、陸斗(りくと)の中には、ふつふつと怒りが湧き上がる。なんで。なんで隼也はあんな事。よりにもよって、海里に。  海里の前から離れたというのもあって、陸斗は容赦なく自分の唇を噛み締めた。僅かに、鉄錆のにおいと、血の味。皮が剥けるなり、なんなり、したのかもしれない。  そんな陸斗の様子を見たからか、元より話すつもりで「陸斗を送ってく」なんて言ったのか。 「危ない目に遭わせるヤツは許さない。そんなヤツは消えれば良い」 「……港」 「隼也はそんな事を言いながら、海里の腕を斬ったんだよ」  一瞬ついに自分への恨み言を言われたかと、胸の痛みと同時に何処か安堵を覚えた。どうやらそれは勘違いで、港が電話をかける前、病室での一幕を呟いたらしいが。  それにしても、なんで海里なんだ。隼也が1番嫌っている相手は、柚陽(ゆずひ)だろうに。疑問がぐるぐると渦巻いて、気持ち悪い…少なくとも紗夏(さな)と海里に面識はないはず、なのに。 「……もしかして、オレが紗夏と話してるのがバレたから……?」  だから柚陽でも陸斗でもなく、海里を刺したのだろうか。恨めしい相手が大切に想ってる人を奪ってしまおう、と。

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