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 隼也(しゅんや)は、陸斗(りくと)海里(かいり)と付き合っていた事を知っている。そうであれば、隼也への恨みが海里に向いたとしても不自然ではない。  不自然ではない、けれど。陸斗に対して怒りを抱くにしても、「本人よりは」と思うにしても。海里と隼也は友人ではないか。そんな、友人相手に、そんな、こと。  そこまで考えて、陸斗は思わず、ははっ、乾いた声を漏らして自嘲した。「友人」相手に? オレは「恋人」相手にあんな事したじゃないっすか。別にアレを愛だなんて、思ってねぇのに。 「オレから月藤(つきとう)を奪うなら。お前も大切なものを奪われる痛みを知れば良い。…………アイツ、海里がオレの親友だって知ってたから、お前よりオレに責任があるかもな」 「……どっちにせよ、紗夏(さな)の件は慎重になった方が良いっすね。」  またもや(みなと)が口にした言葉で知らず沈んでいた意識と俯いていた顔が上がって、陸斗はぼそっと呟く。  隼也が敵になれば厄介だと分かっていたのに、もう少し「最悪」を予想すれば良かった。後悔したって遅いのは分かりきっているのに、後悔ばかりだ。  振り払おうとしたって振り払えるものでもない気持ちを、それでもなんとか振り払おうと、実際頭を横に振る。それなりに勢いは付けたから見た目にはさぞ間抜けに映っただろうし、陸斗の脳が僅かにぐわん、揺れている。  それでもその甲斐あって、と言うべきか。沈むだけだった思考は、少しマシになったようだ。とは言え、まだ万全に働いてるなんて、お世辞にも言えないけれど。 「ここまでで良いっすよ」  陸斗たちの家が見えてきたあたりで、陸斗は港にそう告げる。港とて別に本気で陸斗を送ろうと思ったワケではないだろう。さっきまでの話を陸斗にするための建前だ。  それに、 「……一緒にいるトコ、隼也に見られても厄介だしね」 「そうだな」  それは港も同意見だったようで、その場で港は病院の方へ、陸斗は家へと向かった。  けれどその足はすぐに止まる。家の前に、誰か、いた。  それはどこか、空斗(そらと)のことを思い出す光景ではあったけれど、「誰か」の輪郭は空斗よりもよっぽど成長してる。  嫌な予感を抱きつつ。それでも覚悟を決めて、 「なんか用っすか?」  陸斗は1歩を踏み出しつつ、そう訊ねた。

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