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「……隼也 」
家の前で立っていたのは、隼也だった。陸斗 の声でゆらり、と上げられた顔は、まるであの隼也と同じには見えなかったけれど。
友人として。爽やかで明るい彼を知る陸斗には、紗夏 に対して逸脱した執着を見せていることも、海里 にしたことも知っていても、その顔は、どこか違和感を訴える。
今し方正常な働きを、少しとは言っても取り戻したのに。また脳がエラーを起こして、考えることを放棄しそうだ。
どんよりと濁った目は細められていて、怒りと後悔を湛えているような気がした。
口はぽかんと半開き。そこから呪詛が紡がれていてもおかしくないし、マンガかなにかだったら魂が抜けてるような描写がされているのかも。
腕もだらんと垂れていたけれど、「リラックスしてる」なんてワケではないのは、小さな子供でも分かる。むしろ、小さな子供なら泣き出しそうっすねぇ。
まるでどこぞのホラー映画や、ゾンビものから抜け出してきたみたいだ。だらんと垂れた腕が、余計に「それっぽい」。
名前を呟いて、陸斗がなにか言うより先に、「陸斗……」隼也が震えた声で先んじた。
「オレ、オレは……悪い、陸斗」
「……なにが、っすか?」
「でも後悔はしてないんだと思う。だけど、お前には謝らないと」
「だから、なにを」
白々しい。答えの検討はついているのに。
問い返す声は、わざとらしくなかっただろうか。動揺に震えていないだろうか。
とは言え、今の隼也には、そんなところにまで至る余裕はなさそうだけれど。
「月藤 にチョッカイを掛けてた男の事が分かったんだ。月藤に付きまとって、たぶらかそうとしていたアイツの」
隼也の目線が下に落ちる。
つられて思わず追いかければ、自分の手を見つめていた。
「海里の親友だってさ。まさかだよな、気付かなかったなんて。ソイツは月藤をたぶらかして、オレから奪おうとしたんだからさ。……少しくらいは、その痛みを知れば良いと思ってさ」
「……アンタ、何したんすか」
本当に白々しい。頭の片隅で思いながらも、その言葉は自然と喉から出てきた。演技や計算ではなく、本当に感情のまま。
隼也が何をしたか知っている筈なのに、改めて隼也に告げられたせいだろうか。怒りが広がって、知らず握りしめた拳は震えていた。
「海里の病院に行って……海里のこと、刺しちまったんだ。ほんと、悪い、陸斗」
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