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「なんで……なんでそんな事したんすか!!」  出てきた叫び声に、陸斗(りくと)は自分で驚いた。  その場に響く叫びも、隼也(しゅんや)の胸ぐらを掴んだ手も、陸斗が意識してのことじゃない。すでに知っている情報を、改めて隼也に告げられた。その途端、思考するより先に体が動いていた結果だ。  「なんで、なんで……」うわ言のように繰り返しながら、隼也の胸ぐらを掴む手に力を込める。でも震えた手じゃ、そんなに上手く出来はしない。それでも理屈じゃなくて、効果なんて期待してなくて。  もちろん、隼也が先ほどから告げている「ごめんな」を聞いたところで、手を引けはしない。海里(かいり)本人は隼也のことを許していたっていうのに。オレが怒れたことじゃねぇのに。 「ほんと、お前にも海里にも悪かったって思ってる」 「オレじゃねぇっすよ! 海里に謝れって」 「……でも、アイツだって悪いんだ。月藤(つきとう)にチョッカイを出すから。……海里にだって責任はあんだよ」 「……は?」  恨みと罪悪感に湛えられた目が、少しだけ恨みを濃くして陸斗を見据える。どろりとした目に真正面から見つめられて、ほんの一瞬、本能的な恐怖に力が抜けた。  そんな本能に怒りは優って、完全に手を離してしまうことはなかったし、直後にはその反動で更に力が込められたけれど。 「海里になんの責任があるって言うんだよ!?」 「海里が、アイツと付き合ってれば。最初からずっとアイツと付き合ってれば、アイツの恋心を受け入れていれば、月藤が傷付くことだってなかっただろ」

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