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 ぷつん、と。  陸斗(りくと)は何処か冷静に、自分の中で何かが切れる音を聞いた。瞬間頭の中が、心の中が、怒りで広がるのを、やはり何処か冷静に感じていた。まるで他人事のように。それでも自分の物として、強く強く。  ギリッ、その音が隼也(しゅんや)の胸ぐらを、ねじるように掴んだ音だと、どこか遠くで認識する。隼也の顔が僅かに歪んだのは分かったけれど、手を緩めようなんて思えない。  なるほど、ソレは隼也の方だったのか。  自分に振り向いてくれないからと、紗夏(さな)海里(かいり)を傷付ける事はしなかった。疑わなかったと言うと嘘だ。それでも紗夏は「自分にとって傷付けるのは愛の証」だと言って、ソレをしなかった。  だけど、隼也にとっては。  隼也にとって海里は、友人であると同時に憎しみを向けるに値する相手だったのだ。「海里が柚陽(ゆずひ)を選ばないばかりに、紗夏が代用品として傷付けられてる」。そんな認識が、あったのだ。  だから自分の友人であるにも関わらず、(みなと)への復讐として、海里を傷つけた。あるいは少しためらったのかもしれない。でも今、隼也ははっきりと、「海里だって悪い」そう口にした。陸斗にとってはそれで十分だ。 「テメェの事情で、海里の気持ちを左右してんじゃねぇよ」  自分の耳に届いた声が、おそろしく冷たい。怒る資格なんてないのにな。ほんの片隅でそんな風に呆れながらも、簡単に怒りは収まってくれない。  ……確かに、オレはもっと酷いことをした。それに隼也がこんな凶行に走った原因の一端は、「あの策」にある。だからもしも、隼也が「港への復讐だった」と言っただけなら、陸斗は、あるいは、ここまで隼也を責めなかった。責められなかった。  だけど、現実は違う。コイツは、隼也は、紗夏のために海里の気持ちを犠牲にしろ、なんて言ったんすよ。 「っ!?」  ぎり。再度強く締め上げた直後、ピリッとした鋭い痛みと、どろりとした粘着質の熱、目の前で火花が散った感触に、隼也の胸ぐらを掴んでいた手が、反射的に離れた。

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