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「りっくんは分かったみたいだけど、肝心のお前が分かってないじゃん。だからオレ、お前のこと無理なんだよねぇ」
やれやれ、そんな風に言わんばかりに柚陽 は肩を竦めた。
声音は軽やかで、動作はコミカル。それでいて童顔に貼り付いた表情は、無邪気な笑顔ではない。嘲笑ですらなく。
いっそ哀れんでいるかと錯覚するほどの呆れが、傍目には可愛らしい童顔に、不似合いに添えられている。
「ワケわからねー事言ってないで、とっとと月藤 を解放しろよ!」
「だーかーらー! オレが紗夏 を縛ってるんじゃないのー。紗夏の意思だよ? お前は、なんで尊重できないの? 大好きな紗夏をオレに盗られたくないから?」
「何言ってんだよ。そんなんじゃねぇって、お前は何度言わせる気だ。お前といたら紗夏が危ないから引き離すんだよ」
吐き捨てて隼也 の手は、更に強くナイフを握りしめた。「まさか、このまま刺す気じゃないっすよね!?」陸斗 は不安になる。
不安になりながらも、柚陽が隼也を嫌うことに関しては納得していた。
もしこれで隼也か柚陽の言葉に頷いていたなら、柚陽はここまで隼也を嫌わなかったに違いない。
「だからね、お前の話の中には紗夏がいないんだよ。紗夏にチョッカイを掛けた男が腹立たしいから、ソイツの親友を傷付ける? その恋人に文句を言われたから恋人を傷付ける? そこのどこに、紗夏が存在するのさ?」
果たして、柚陽の言葉は隼也に届いていたのだろうか。
隼也の体が小刻みに震える。まるで泣いているように。痙攣しているかのように。
「うぎゃあああ!! お前が! 月藤を!! 語るんじゃねぇよ!!」
しかし直後、弾かれたように顔を上げた隼也は手にしていたナイフを、柚陽に向けて振り上げた。
柚陽なんて庇いたくはない。それでも自宅前で事件を起こされるよりはと、隼也と柚陽の間に割り込もうとして。
「もう、いい加減にしてください。隼也さん」
突如聞こえた紗夏の声に、周囲の人間全員が、時間でも止められたかのように、ぴたり、止まった。
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