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「なぁに、りっくん。そんなに意外?」
こてん。首を倒して、柚陽 に問われる。どうやらあまりに予想外なところからの反乱に驚きが素直にそのまま、顔へと出ていたらしい。
誤魔化そうとしたって無駄だろう。陸斗 は素直に頷き、苦笑を交えながら肩を竦めた。「そっすね」言葉でも、あっさりと肯定しておく。
柚陽はといえば、それで気分を害した様子もなく、くすくすと楽しそうに笑っていた。この場に於いても普段と一切変わらない無邪気な笑顔なのは、柚陽らしいといえば柚陽らしい。
「まったくー。オレのこと、なんだと思ってるの、って話だよねぇ。人のお家をこんなところ、って言っちゃいけませんって常識くらいはあるし、オレは海里 が好きなんだよ? あんな暴言、許せるワケないじゃん」
続けられた言葉は納得できるものでありながらも、意外ではあった。柚陽のことなら、そーいうの気にしないと思ってたっす。
「あー! 今失礼なこと考えたでしょ? 確かにオレにとって愛は壊すこと、それ以外はおかしいって思ってるよ。でもねー、好きな人が住んでるお家に憧れないワケじゃないんだって。オレが入ることの許されない場所だもん、それを、しかもコイツなんかに、こんなところ、って言われればオレだって怒るの!」
……なるほど。やっぱ意外ではあるっすけど。でも愛情表現の仕方こそ人と違うだけで、そこには「好き」っていう気持ちが存在している。
だから陸斗は無傷で、本人の言葉を信じるのであれば空斗 との母親にも暴力は一切振るっていないらしい。何人かの「代わり」の傷も軽い。柚陽が傷付けた相手は海里と紗夏だけだし、「傷付けたい」「海里と同じようなことをしても良い」と思えるのも海里と紗夏だけ。
歪んではいて、到底認められないし、理解もできないけれど、やはりそこには、あるんだろう。ごくごく普通の、「好きだ」って気持ちが。
「アンタの思考は理解できないし、したくもないけど。自分のこと棚上げするけどアンタは許せない。……でもまあ、納得はしたっす」
「えへへー、それはなにより」
そうしている間に、隼也 は動揺から多少は回復したらしい。けっ、そんな不満とも侮蔑ともつかない音を吐き出してから、ぺっとその場に唾を吐き捨てる。……いや、だから誰が掃除すると思ってるんすか、この男は。
顔に見合わずやる事がトんできている。こういうタイプほど切れた時の振れ幅が大きいんだっけか。
とはいえ、やはり紗夏の手前もあるのかナイフは隠したまま、目線は落ち着きなく紗夏と柚陽を往復させているけれど。そのせいか、感情が2つの目の中でぐるぐると渦巻いている。
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