421 / 538

 隼也(しゅんや)が握るナイフの切っ先は、細かな狙いこそ定まっていないものの、大枠では正確に紗夏(さな)を狙っていた。無論、隼也の方には「狙おう」なんて気持ちは毛頭なくて、感情のままに突っ込んでいるだけだろうが。  そうした人間ほど危ないものはない。運が良ければかすり傷さえ追わずに済むかもしれないが、運が悪ければ。  ここが自分の家であり、海里(かいり)の帰りを待つための場所だから、というワケではない。いや、その考えがまるきりないとも言えないかもしれない。  ただ、陸斗(りくと)としても、このまま紗夏が刺されるかもしれない、最悪殺されるかもしれないというのを、ぼんやり見ることは出来なくて、思わず紗夏を庇うように2人の間に入ろうと足を踏み出した。間に合うだろうか。違う、間に合わせるんすよ。無理矢理にでも。なんなら紗夏を引っ張ってでも。  しかし、それは、  鼻先を鉄錆のニオイが擽った。新たな痛みを感じることはない。もしかして、間に合わなかったんすか。  悔やみながら、おそるおそると、目線を紗夏たちの方へ向ければ。 「あー、もう! いったいなぁ」  ぽたぽたと赤色の液体を伝わせる腕を片手で抑えながら、不満そうに訴えるのは。「痛い」と訴えながら、弾んだ声は。 「柚くん!? 柚くん、なんで、なんでですか!?」  切迫した声が、叫ぶように柚陽を呼ぶ。その言葉通りに。  隼也と紗夏の間に割って入った柚陽が、そこにはいた。

ともだちにシェアしよう!