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すっかり慌ててしまって「とにかく病院に行きます」と言い張る紗夏 に、半ば引きずられるように連れていかれる柚陽 を、陸斗 は複雑な心境で見送った。
なんて思うのが正解なのかも分からない身では、掛ける言葉なんて思いつきもしない。「良かったね」とも思うし「意外だ」とも思う反面、納得もしている。それからこうして呑気に柚陽を見送っていることに、「いやいや、なんかコレ違うっす」とも。
少なくとも最後の1つに於いては柚陽も同じ気持ちだったようで、紗夏に引っ張られながらも顔だけで振り返ると、その幼い顔を複雑そうにしかめてみせた。なんだろう、その時初めて、「柚陽の顔をまともに見た」と思えた。散々見ていたのに。なんなら、一緒に暮らしていたのに。
「コレ、なんか違うよねぇ」
「違うっすね」
本来恨むべき相手だ。いや、今だって確かに陸斗は柚陽を恨んでいる。憎んでいる。多分、許せない。
でもこうして悠長に病院へ行くのを見送ってるって、なんか違う。今は紗夏が必死だから、敢えて飲み込むけど。まあ、海里 と同じ病院にさえ行かなければ、今日のトコは良しにするっす。紗夏もそんな事するとは思えないし。
さて、2人を見送ったところで陸斗の問題は解決しない。
扉や床は血まみれだし、すっかり血が止まってしまっていたけど、自分だって本調子じゃない。
それに、まだぼうぜんと立ち尽くしたままの隼也 もなんとかしないと。
血まみれのナイフを手にした人間が自分の家の前で立ち尽くしてるって、世間的にもオレの精神衛生的にも良くないっす。
なによりここは、海里の帰りを待つ大切な場所なんだから、早急に帰ってもらわなくては。
掃除に、港 への連絡にと、こっちにはこっちの事情もあるのだ。
「……帰ってもらって良いっすか?」
一応、また怒らせないように。警戒と注意は万全にしたまま、陸斗は隼也へと声を掛けた。
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