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「……なんでアイツは良くて、オレはダメなんだろうな」  幸い怒らせる事はなかったが、言葉を聞き入れてくれる気もないらしい。あるいは、あまりのショックに聞こえていないのだろうか。  なんにせよ、早くに動いてもらうのは難しそうだ。まったく、血が止まったとは言ってもこっちは怪我人なんすよ。それにあれだけ柚陽(ゆずひ)たちに言われてなお、「なんで」なんて呟いている。  まあ、理由が頭で分かっていても心の納得に伴わない場合、「なんで」と思ってしまうものだが。 「だから柚陽たちも言ってたっすよね? 隼也(しゅんや)紗夏(さな)を思い通りにしようとしてただけだ、って」 「違う! オレは、オレは月藤(つきとう)の事を考えて」  ぎりっと、ナイフをつかむ手に力が込められるのが目に見えて分かった。刃の部分はもう赤黒く変色していて、元の色が簡単には分からない。 「カッとなって刺そうとしたのに? アンタは何事も、紗夏のことを自分の測りだけで考えてるから駄目なんすよ」  呆れながらも、陸斗(りくと)は軽く呟いた。

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