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「いやいや、病院行けよ、病院!!」
メールをしたら電話が来た。それも結構な声量なんじゃないだろうか。
咄嗟に耳からケータイを離す。機械ごしだというのに耳がキンキンしている。つーか、離してても「おい! 聞いてんのか、おい!! 大丈夫なのかよ!?」という港 の声が聞こえてくるんすけど。
ごめん、もう少し声絞って。
「ごめん、もう少し声絞って」
「おま、…………悪ぃ」
実際口に出してみたら更に大きな声で返され掛けて、それでも港の方にも自覚があったのか、続いた謝罪の言葉が常識的な音量になっていたことに安堵する。
まあ、心配してくれてたのかもしんねぇけど? それで鼓膜を破られてしまっては、本末転倒な気がする。
「大丈夫っすよ。血は止まったし、腕はそれなりに動くし。痛みが全くない、って感じでもないから」
包帯を巻いた自分の腕を眺めながら陸斗は返す。市販の消毒液のにおいが鼻先をくすぐった。
うーん、こんなトコが海里 とお揃いになっても嬉しくねぇんすけど。できれば海里の怪我もオレがもらってやりたい。
「刺されてる以上内側からの病気だってあるだろーし、行けって!」
「別に良いっす」
病院に行きたくないというワケではないし、掃除も港への報告も終えた以上、するべきことはない。
本来なら紗夏 に柚陽 の様子を訊ねたり、彼らに状況を報告すべきなのだろうが、紗夏たちも病院に行ったことを考えれば、今に今でなくとも良いだろう。
……病院行って柚陽に会うのが、ちょっと気まずいんすよね。はっきりしない感情のまま見送った背中と、あの時の柚陽が浮かべた表情を思い出す。
今までのことを忘れたワケじゃない。恋とか、そういうのでは断じてない。ただなんとなく、本当になんとなく、気まずさを感じさせるには十分だった、って話で。
「まあ、そういうと思ったよ」
電話口の声が呆れたように語る。もしかして諦めてくれたんだろうか、そう期待したところでチャイムが鳴った。
もしや隼也 が戻ってきた? 綺麗に掃除したつもりだったけれど血が残っていて、誰かが指摘しにきた?
いくつかの「悪い展開」を想像しながらドアスコープを覗けば、そこには穏やかな、男女共にウケそうな微笑みを浮かべた、
「だから先輩に、首に縄つけてでも連れてくように頼んだ」
波流希 が立っていた。
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