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「あー……どうぞ、上がってくださいっす」
玄関ドアを半開きにして波流希 へと声を掛ければ、
「それより病院に行こうか」
「いや、先輩上げるんじゃなくて、お前が病院行けよ!!」
通話がオンになっていたのもあり、前方と横から同時にツッコまれる。声を絞って欲しいという訴えを忘れられてしまったのか、それなりの大声で告げられたツッコミに、また耳がキーンとしだした。
港 渾身のツッコミは音漏れしていたらしく、波流希 が苦笑した。
「大変だね、陸斗 も」
「耳がキーンとするっす」
「でも港だって陸斗のことを多少は心配してるんだと思うよ」
「それは、海里 の……」
港の叫びが波流希に届いても、極めて常識的、平均的な大きさで話している波流希の声は港に聞こえない。
陸斗の声しか聞いていない状態ではもちろん、会話の流れが汲めるはずもなく、「は?」という多少間抜けな声が聞こえた。それでも直ぐに思い至ったらしい。「ちげーよ」そんな声が波流希からではなく港から返ってきて、陸斗は驚いた。
「え、アンタ、波流希の声聞こえてたの?」
「聞こえてねーけど、だいたいの話は分かったっつーの。海里が傷付くからお前には無事でいて欲しい。これが大部分の本音だけど、これへあくまで海里を心配してるだけだろ? 少しだけ、だけどな。許してもいないけどな。それでもオレはお前を、少しは心配してんだよ」
徐々に小さくなっていく声が、波流希に聞こえていたはずもない。それでも波流希は、まるで「事態を全部わかってる」というように、にこにこ笑っていた。
微笑ましげなその笑顔が、どこか気恥ずかしくてくすぐったい。
そんな笑顔で「オレも同じだよ」なんて言われてしまったら。海里のため。罪悪感があるから。それ以外の理由でも頷くしかないじゃないか。
「分かった。分かったっすよ!! 念のため、行ってくるっす」
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