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「なんともなくて良かったね」
「そうっすね。これで何か問題があったら、ちょっと笑えないっすから。海里 や波流希 たちにやられたならともかく、そういうんじゃないのに大怪我、なんて」
良いと言い張ったにも関わらず病院で診察が終わるまでを付き添ってくれた波流希と並んで歩きながら、陸斗 は苦笑を浮かべる。もっとも、それで償いになるなんて思ってはいないけれど。
幸い病院で柚陽 たちに会うこともなかったし、怪我も問題なかった。
まだ問題は山積みだから安心、とは言えないまでも、少し息をつくくらいなら許されるだろう。
「それに、海里が悲しむと思うよ。陸斗くんが怪我なんてしたら」
「……海里はほんと、心配になるくらいやさしいっすよねぇ。正直、ちょっとおバカさんにも思えてくるっす」
一応はためらいながら口にした言葉に、波流希は怒ることなく、むしろ、ぷっと吹き出した。そのフレーズがツボにでも入ったのか、くすくす笑いながら「やさしすぎるおバカさんかぁ」なんて繰り返している。
怒らせるならともかく、笑わせるような表現だっただろうか。不思議に思って首を傾げれば、「ああ、ごめんごめん」なんて言ってから、普段通りやさしく微笑む。
それでもまだ尾を引いてるらしくて、いつもの男女共にウケるような微笑みではあるんだけど、どこか無邪気な少年の色も窺えた。
「海里は確かにやさしいよ。それこそ、少しやさしすぎるくらいにはね。でも、だからと言って聖人君子じゃないし……多分愛し方も、世間一般とは多少ズレてる」
「それは……」
かつて陸斗は、そのことでひどい言葉を吐いてしまっている。「かつて」なんて、さも遠い過去のような言い方だけれど、だいぶ近い過去に。
本当は言いふらしたくないだろうに波流希が打ち明けてくれた時も、結局陸斗は柚陽を信じていた。
それを嫌でも強く感じてしまうのと、軽々しく返せるような家庭環境じゃないのとが相まって、陸斗の口は重くなる。
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