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「気休めにもならないかもしれないし、却ってそうされたいのかもしれないけど、別に責めてはいないよ」  陸斗(りくと)の胸の内を悟ったように、やさしい微笑みを浮かべて波流希(はるき)が言う。それは的確であるワケで陸斗は思わず苦笑した。  痛みに耐えるように強く拳を握りしめる。包帯に巻かれた腕にまで、どこか引き攣るような痛みがして、直後、「こら」やさしく波流希に叱られた。 「傷口が開くような真似、しないの」 「分かってるっす、けど……」  分かってる。なんなら多少のうぬぼれも入ってるけど、陸斗がそうして傷付く事で海里(かいり)が落ち込むらしい、っていうのも。  海里をこれ以上傷付けたくはない。その思いだけでどうにか陸斗は、自分の拳を解く。それでも、胸の痛みは癒えやしない。  でも、却ってその方が良いかもしれねぇっすね。だって海里の胸の方が、よっぽど痛んだだろうから。 「おバカさんな程にやさしいのは、陸斗くんに対してだけ。それは分からなくても良いけど、でも、今度からは海里を大切にしてあげてね」 「するっすよ。償いたい、でもそれとは別に、やっぱ海里を幸せにしたい、一緒に幸せになりたいんすよ」  自分の胸元を抑えつつ、ぼそり、陸斗は呟いた。  今度こそ、今度こそ海里を幸せにしたいのだ。2人の幸せを、またこの手に乗せたいのだ。だから。  波流希が微笑んで自分を見つめているのが分かって、どことなく気恥ずかしかった。

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