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「……来てくれてありがとな」
「別に。あとから話すって言った手前もあるっすから」
「こんなに早く呼び出されるとは思ってなかったすけど」。その言葉は飲み込んだ。幸い今は“普段通りの隼也 ”ではあるが、わざわざ刺激するような事を言う必要はない。それにこういうのは早く済ませた方が良い気もするし。
陸斗 は自衛のため「人目のあるところ」を指定した。しかし、人に聞かせられる話ではない。なんせ、揃いも揃って恋愛観が「世間一般」からズレている上に隼也はつい数日前にナイフを振り回したばかりだ。幸い全員が軽傷だったけど、ケガ人だって出てるワケだし。
内容も内容になってくるだろうことは、“今の”隼也にも明らかなようで、そう切り出したのは、店に入った手前注文した飲み物と軽食が届いてからだった。
腹がすくような内容になるとは思えないっすけど、長話になる可能性を考えると、さすがに飲み物1杯で、ってワケにはいかないっすからね。
素っ気なく返しながら、気を紛らわせるように注文したコーヒーを口に運ぶ陸斗を見つめつつ、「それでも礼は言っておきたくて」隼也が再度口にした。
ちらっとカップに顔半分を隠しながら窺ったその目は、まっすぐ陸斗を見ている。でも時折気まずそうにちらちら逸らされたりもしていた。相変わらず感情はごちゃまぜになってるけれど、正気を失っているという感じもしない。
油断大敵だけれど、取り敢えずは安心して良いだろうか。
「……早速で悪いけど、教えてくれねーか? 月藤 は、なんでオレを避けるんだろう。なんでオレじゃダメなんだろう。あの時、なんでアイツは……柚陽 は、月藤を庇ったんだ? アイツの言った事もまるで分からない」
柚陽。その名前を呼んだ途端、いろんな感情を宿していた目は、嫌悪1色になって、顔も露骨に歪む。「よっぽど嫌いなんすねぇ」と思いつつ、その表情の変わり方が、却って隼也の冷静さを示してるようにも見えた。
なんせこの2人、紗夏 を間に挟んでるせいもあるだろうけど、致命的に相性が悪いらしいから。
「柚陽が紗夏を庇った理由なら、簡単じゃないっすか? 本人も言っていた通り、紗夏を傷付けられたくなかっただけっすよ」
こんなにも単純な理由があるだろうか。紗夏側の事情を知っている陸斗としては、状況が状況であるにも関わらず微笑ましささえ抱いてしまったけれど。
でも、そうした事情の知らない人間から見れば、もっと分かりやすい。「独占欲」や「嫉妬」だ。柚陽本人からしたら「まあ、違くないけどぉ。そんな単純でもないもん」なんてわざとらしく頬を膨らませそうだけど。
しかし隼也はそれが分からないのか、解せないのか。しまいには腕さえ組んでしまって、「うーん」なんて唸りながら首を傾げた。
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