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「……そんなに悩むことっすか?」
「だってアイツは散々月藤 を傷付けただろ? それなのに傷付けられたくない、なんておかしくないか?」
「それも本人が言ってたっすよ。自分以外に傷付けられるのが嫌だ、って」
「何様のつもりだよ」
ああ、これはやっぱ地雷だったっすね。隼也 が手にしていたグラスに思いきり力を込めた。さすがにマンガじゃないから割れたりはしなかったけれど、力の入り具合から考えるに、だいぶ怒っている。
もしかしたら隼也は「認めたくない」だけかもしれない。柚陽 の中で紗夏 が特別になりつつあるという事実を、認めてしまったら、自分の気持ちが行き場をなくしてしまうから。
あまり隼也の目を直視したいとは思えないし、こっそり様子を窺って備えてもおきたいけれど、ずっとカップを口に付けているのは、いくらなんでも不審だ。陸斗 はカップをソーサーの上に戻すと、なにも挟まず隼也を見つめた。
隼也は相変わらず納得できていない上に、柚陽の態度が腹立たしいらしくて、渋い顔で唸っている。
……仕方ない、少し踏み込むか。
「隼也だって紗夏が他の人と付き合うの、嫌でしょ?」
「そりゃあ月藤が心配だし」
「心配だし、なんかモヤモヤ……嫉妬だってしてると思うんすけど」
「……否定は、しない」
紗夏への想いを自覚したせいで奔った凶行だけど、自覚していて良かったかもしれない。これで今までのように、「そんなんじゃない」と通されたら、とてもじゃないけど話にならなかった。
「結局柚陽があの時感じてたのは、めちゃくちゃ雑な言い方すると嫉妬なんすわ。紗夏には自分のそばにいてほしい、っていう隼也に似た気持ち」
「アイツとオレを一緒にすんなって。マジで腹立つし、吐き気もする」
「それは謝っておくけど。でも一旦柚陽への気持ちは脇に置いといてくんないっすか? 話しにくいっす」
柚陽のことも聞いているのに柚陽の話をしたら目に見えて苛立たれるのは、やりにくい。そりゃあ柚陽を避けて話すこともできるっすけど、紗夏の「好き」さえ否定しちゃってて、自分の「好き」もつい最近まで自覚してなかった相手に、柚陽の名前出さずに、って無理っすわ。
陸斗の訴えを「本当に渋々」って感じてはあったけど、一応は聞き入れてくれる気になったらしい。「……分かった」と、心底不機嫌そうに、ぼそっと呟くように、それでも了承が返ってきたことに、陸斗は少しだけ安心した。
……どうしよう、すごく疲れたっす。
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