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まだ話し出したばかりだというのに、さっきから長時間話していた様な怠さを感じる。陸斗 はまた息を吐き出したくなって、それをどうにかこうにか飲み込んだ。
「分かった」と呟いた声が心底不機嫌そうだった事からも分かる。隼也 が柚陽 の話をするのを了承したのは、本当に文字通り「渋々」だったのだろう。まだ不機嫌そうに顔をしかめている。
……これはあんまり柚陽の話題に触れない方が良いっすねぇ。改めてそれを理解して、陸斗は会話を早々に切り上げようと決心した。
「柚陽も紗夏 に、傍にいてほしかった。
それくらいには感情を、好意を寄せてるから庇ったんすよ。守りたいって気持ちもあったかとしんねぇし、自分以外に傷付けられたくないって気持ちも強かったのかもしれない。……アンタが紗夏を守りたい、変な人間と付き合わせたくないと思う気持ちと似てるんす」
それでも納得はできないみたいで、首を傾げては「でもなー」「意味が分からねぇ」とぼやいているけれど。
……ぼやいてる声は辛うじて穏やかさを残してるけど、目は怒りに満ち満ちてるっすね。「理解できない」っていう感情もあるだろうし、やっぱり純粋に、よっぽど柚陽を嫌ってるんだろう。下手をしたら、港 たちや、陸斗以上に。
気を紛らわせるようにコーヒーを1口飲む。味なんて分からなかった。
重苦しく感じられる空気と、現状に対する単純な気の重さから、隼也がウンウン唸ってる時間は何分、何十分にも感じられた。実際は、3分も経ってないのだろうけど。
「にしても」解せない、そう目と声音で雄弁に語りながら、隼也は切り出した。
「そんだけ想って、自分が怪我してまで月藤 を守りたい人間が、なんで月藤を傷付けるんだ?」
「アンタはどうなんすか?」と聞きたいけれど、聞けるワケもない。
ソレは陸斗にとっても理解できる感情ではない。それでも、紗夏のおかげもあってか、多少認識は変わっている。
念のため、「認める認めないはともかくとして、事実だけを話すっすね」と前置きをしておく。何も言わずにコレを話せば、隼也がどれほど激昂するかなんて、考えるのも恐ろしい。
隼也が頷いたのを確認してから、陸斗は口を開いた。開いた口から心臓なり、肺なり、いろんなものを吐き出してしまいそうだ。嫌な緊張感。
「アンタが紗夏がどんな人間と付き合うか慎重になるように、それで紗夏への愛を示すように。柚陽にとっては誰かを傷付けるのが愛情表現なんすよ。ソレは好きな人にしかやらない。……歪んではいるっすけど、柚陽なりの好意なんすわ」
「……わっかんねーなぁ」
そこまで非常識な大きさではなかったけど、突然あげられたさっきまでよりは大きな声に、思わず陸斗は身構えた。
隼也の狂気は腹立たしい本人より、その大切な人に向けられ易い。また海里 に何かあったら。それが不安で。
「ああ、悪い。お前には怒ってねーよ」
陸斗が身構えたのは、そこまで露骨に映っただろうか。隼也に言われて面食らう。少しくらい、ポーカーフェイスを保たなきゃダメっすね。思わず内心で苦笑した。こっちは気付かれなかったらしい。
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