436 / 538

12

「そういう風な感情を向けられるのが好きなら、なんでオレの事はあんな風に拒んだんだろうな、って。変なヤツと付き合ってるから、おかしくなっちまったのかもしれないけど」  どうやら、紗夏(さな)に対しての「分からない」だったらしい。当人同士ではないが、その答えだって簡単じゃないか。“そういうところ”だ。  だから紗夏は隼也(しゅんや)を好きにならないどころか、嫌いになっていくというのに。本人はそれに気付かないで、ますます紗夏を縛ろうとするんだから。  絵に描いたような悪循環だ。そしてここまで盲目的に「自分に非がない」「周りが悪い」と想っている隼也に対して、もはや呆れるではなく、同情するべきなのかもしれない。 「隼也が嫌な理由は、そこっすよ。紗夏は誰彼構わず虐げられたいワケではないし、愛ゆえに刃物を振るうんだと思ってる。関係ない人間に向けちまうのは紗夏には理解できないし、そうやって束縛されるのも好きじゃないのかもしれないっす。あと、少しは隼也にも理解しようとして欲しかったのかもしれないし」  紗夏の気持ちは、紗夏にしか分からない。  だから結局は憶測に過ぎないものの、そう告げて、頼んでおいたサンドイッチに口を付ける。  隼也の反応を確かめながらサンドイッチを噛みしめる。やっぱり味はよく分からない。店に申し訳ない気持ちになりながら、なんとか飲み込んだ。  けれど。 「本当、まるで分からないんだよなぁ。ちょっとは分かるかと思った。月藤(つきとう)の気持ちが、こっちを向くかとも期待した。だから月藤を刺してみたけど、まるで分からねーんだ」  その言葉に、飲み込んだ感覚さえなくなった。代わりにしたのは、すとん、と、体の何もかもが落下していく様な不快な感覚。  頭が真っ白になった、なんて事さえ自覚するより先に、「は?」陸斗(りくと)の口からその音が漏れた。

ともだちにシェアしよう!