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己の意思を曲げる事に決めた
喫茶店から半ば逃げるように出てきたは良いけれど、どこに向かうかアテがあるワケではない。「刺した」と言うなら病院にいると考えるのが妥当だけれど、なんせ隼也 の言葉を考えると救急車なんて呼ばずに放置している可能性は高い。
そもそも刺した張本人が救急車を呼ぶなんてこと、考えにくいし。
マンションで見た海里 の姿が浮かんでしまって、嫌な予感を胸の中がじわじわと埋め尽くしていく。
「最悪」の事態になっていたらどうしよう。浮かんでしまった考えを懸命に振り払おうとしつつ、陸斗 はひとまずケータイを開く。
紗夏 張本人に連絡したところで通じるかは分からない。でも、もしかしたら誰かが、柚陽 あたりが見付けてくれて、紗夏のケータイを持っていてくれる可能性もある、かも。
それなら直接柚陽に電話をした方が早いだろうか。電話帳の画面を見つめて、考えた。あまりノロノロしていたら本当に「最悪」なことになりかねない。隼也が追ってくる可能性だってあるだろう。
とりあえず柚陽に連絡っすか? でも隼也と対峙した時の様子を思うと、そう簡単に連絡出来る相手でもない。だけどもし紗夏が刺された事を誰も知らないのなら、誰かに報告しておいた方が良いのは確かだ。どこで刺されたのかも分からないが、探すにしても人手は多い方が良い。
柚陽の連絡先をタップしようと伸ばした指は、しかし、
「りっくん」
本人の声によって、止められた。
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