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「オレが好きな人しか傷付けたくないのと一緒。紗夏 は好きな人にしか傷付けられたくないんだ。それなのに、アイツは!!」
柚陽 が、遂に声を張り上げた。ぼんやりと陸斗 の方を見つめる。憎悪に満ちて涙に震える目が、まっすぐに陸斗を捉えていた。
演技かもしれない、なんてまるで思わなかったワケじゃない。それでもこの痛々しい様子の柚陽を放置はできないし、紗夏の件に関しては柚陽を頼るのが1番だろう。だからと言って掛ける声なんて、それほど持ち合わせてはいない、けど。
「隼也 ならさっきまで喫茶店にいたっすけど、なにをするつもりなのか、聞いても良いっすか」
「喫茶店かぁ。でももう別の所にいそうだよねぇ。家で張ってた方が無難かなぁ」
陸斗の言葉が聞こえているのかいないのか。「喫茶店にいた」っていう情報だけを拾った柚陽は言葉を続ける。
ただ、なにをするのか分からないまま柚陽を送りだすことは出来ない。それにただでさえ相性最悪の2人だ。今会わせるのは利口とは言えないだろう。隼也に関してはともかく、柚陽に対しては、「心配」と言うのとは違うけれど、今柚陽まで傷付けば紗夏の負担になってしまうだろうから。
「だから、柚陽」
なにをするんすか、その言葉は続かなかった。「オレはね」普段のように無邪気な言い方で、だけど感情的に震えた声で、そう切り出した。
「アイツに復讐してやるんだ」
にっこりと浮かべられた笑顔は、普段のように無邪気な物じゃない。無邪気さを浮かべながらぞっとするものを湛えているソレでもなくて、純粋にただただ、憎悪に満ち満ちていた。
「復讐する」。言い切った柚陽の手には、ナイフが握られていた。しっかりと。
「……え」
それは、至極当然の、不自然ではない結論だろう。それでも陸斗は驚いて、思わず声を漏らしていた。
世間一般では、あまり不自然と言えない答えであっても、ソレは柚陽が至るにはおかしいのだ。だって彼にとって「傷付ける事」は「愛」なのだ。愛の無いセックスは出来ても、愛をなくして人を傷つけられる子じゃないのに。
憎悪に歪み切った顔で、それでも柚陽は、にっこりと微笑んだ。
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