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「オレにとって誰かを傷付けるのは愛の証だよ。それしか思いつかない。愛が無いのに誰かを傷付けるなんて絶対に出来ないよ。でもね」
柚陽 がそっと指先で持っていたナイフの刃に触れる。相変わらずその目には憎悪が満ちていた。
「紗夏 はオレのだ。オレの代用品、オレが唯一ほしいと思った代用品。そばにいても良いと思った相手。そんな相手をアイツは傷付けたんだから」
グッ、と、更に強く柚陽の手がナイフを握り込んだ。陸斗 に対して恨みを向けていないというのは分かっているのに、その目は向けられていなくても平然とこちらの心臓を射抜いてくる。
「だからオレは、アイツに復讐をするよ。大嫌いで、憎たらしくて、ずっとずっと邪魔だと思っていた相手。まあ、オレさー、海里 が大好きだから港 たちが邪魔だったよ? でも、それだけだった。まあ、アイツ等はオレが憎む様な事、しなかったっていうのも、あるかもしれないけど。ただ、隼也だけは許せないから。だからオレは決めたよ。愛を示すオレの大切な行為。それを今、復讐って手段に使ってやるんだ」
にっこりと微笑んで断言する柚陽に、思わず陸斗は手を伸ばす。手を伸ばして、違う、途中まで伸ばそうとして、オレの手は途中で落ちていた。手を伸ばして、どうなるって言うんだろう。
「あのさあのさ、オレには頼まれたくないと思うんだけど、紗夏、もしかしたらりっくんにも怯えちゃうかもしれないけど、紗夏のこと、お願いして良いかなぁ? この病院にいるからさ」
半ば押し付けるように柚陽は陸斗へメモを手渡した。多分最初からそのつもりだったんだろう。「柚陽」呼んだ陸斗に、柚陽は、こてん、いつもの様に首を傾げた。
「紗夏はさ、どっかで自分達がおかしい、って分かってたみたい。オレはやっぱり世間一般からズレてるなんて思わないし、世間がズレてるって思ってる。でもねー、アイツとなんて一緒にされたくないけど、ほんのちょこっとだけ、りっくんがオレに対して感じた気持ち、分かった気がしたよ。ほんのちょこっと、ね。オレにとってはコレが“愛”だから、謝らないけどさ」
「柚陽、もっと他の方法を考えてみないっすか?」
「考えて決めたんだ。もしオレのこと気にしてるんならさ、ちょっとだけで良いから紗夏のトコにいてあげて、ね?」
柚陽は笑った。どこか切なそうに。今ここにいる柚陽こそ、本物の柚陽であるようにも、思えた。
「オレは愛を汚しに、行ってくるから」
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