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 結局なんて言ったら良いかなんて分からないまま、陸斗(りくと)柚陽(ゆずひ)から教えられた病院へと向かっていた。  紗夏(さな)のことは心配で、早く様子を見に行かなくてはと思う反面、柚陽のことも気に掛かっては、つい、ケータイを無意味に覗いてしまう。もう、そんなこまめに連絡を取り合う相手なんかじゃないのに。オレに「復讐」がどうなったかなんて、話す必要だってないのに。  案の定というか何も言わないケータイに、今回ばかりは「便りがないのは」なんて思うことも出来なかった。  結局、そんな風に悩んで歩いている内に、病院に着いてしまった。  (みなと)たちにも、一応かいつまんで報告を済ませている。あとは紗夏が入院しているという病室に向かうだけだ。  1歩1歩、すっかり重くなってしまった足を引きずりながら病室へ向かう。柚陽から教えられた病室には名札が出ていなくて、それだけ隼也(しゅんや)を警戒しているのだと痛いほどに分かった。それは柚陽がどれだけ紗夏を気にしているかを示すものでもあって、もしこんな状況でなければ、「良かったね」なんて言えるはずなのに。  どうにも上手くいかない事に胸を痛めながら、陸斗は念のため、ドアを軽くノックする。聞こえていないのか、気力がないのか。はたまた眠ってしまっているのか。病室の方から紗夏の返事はない。  一瞬悩むが、なにかあったら遅いし、放ってもおけない。音が立たないように気を付けて、そっと扉を開けた。 「こ、来ないでくださ…………あなたは……陸斗さん、ですか?」  開けた途端、引き攣った悲鳴が陸斗の耳を、心を刺す。直後、一瞬、紗夏が海里(かいり)にも見えた。ソレが、陸斗に別の痛みも与える。  空いた扉に反射的に震えた体は、まだガタガタと震わせたまま、なんとか震えを抑えようと自分で自分の身を抱きかかえて、紗夏は確かめるように問い掛けた。見えにくい、とでも言うように目をすっと細めて、陸斗を凝視している。それでもまだ、確信を持てないようで声には震えが残っていた。 「そうっすよ」  もし自分だと分かることで少しでも安心できるならと、早々に肯定を、できるかぎりのやさしい声で告げれば、まだ震えこそ残っていたものの「良かったです」と、少しだけ安心した声が返ってきた。

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