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 不安げな目で見つめられて、陸斗(りくと)は答えに迷う。  柚陽(ゆずひ)が病室にいない理由を陸斗は知っている。もちろん嘘をついた可能性も皆無ではないが、海里(かいり)関係ならともかく、紗夏(さな)関係でそんな嘘をついて柚陽に得があるとは思えない。それに隼也(しゅんや)に対する態度や、あの時の様子を見る限り、「紗夏を傷付けて良いのはオレだけ」っていった思考は、本物な気がする。  陸斗に見せた顔も、きっと。  かと言って、本当のことなんて言えるワケがない。  ここで「柚陽は復讐に行ったんすよ」なんて言えば、紗夏は更に傷付き、自分を責めてしまうだろう。なにせ紗夏は暴力こそ柚陽の愛の証で、彼は愛を伴わない暴力を振れない人だと知っているから。  彼にそうさせたのが自分だと気付いたら、果たしてどう思うだろうか。少なくとも現状では、それだけのことを成せたのだと喜べるとは思えなかった。  しかし本当の事を言えないからといって、答えないワケにはいかない。沈黙は肯定だ。「柚陽は紗夏を捨てた」と暗に言っていることになりかねない。あれだけ執着している柚陽に限って、そんなこと、海里(かいり)との愛が果たされてでもしない限り有り得ないだろう。 「そんなことないっすよ」 「でも今、柚くんはオレの近くにいません……。柚くんが好きで、柚くんの代用品なのに、勝手に暴かれたオレに、愛想を尽かしたと考える方が自然です」 「そんなことないっすよ」  これじゃ壊れたレコーダーじゃないか。気の利いた言葉さえ出てこない自分が嫌になりながら、陸斗は必死で言葉を探した。

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