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 なにか言葉を探さなければ。思っても直ぐに見付かるものではない。それは、もしかしたらオレがずっと「人付き合い」をくだらないと避けてきたからかもしれない。今さら悔やんだところで、遅いのだけれど。 「陸斗(りくと)さんはやさしいから、オレに気を遣ってくれてるんですね。でも大丈夫です。捨てられてしまうのは辛いけれど、オレは所詮代用品なんだって、身の程を弁えなかったから……」 「そんなことないっす」  沈黙を肯定とされたくなかったから、必死に壊れたレコーダーになり続ける。  どっちがマシかも分からないくらい、無意味なことかもしれないけれど。  紗夏(さな)が小さく首を振って、小さく微笑んだ。  正確には「微笑もうと」した。  悲しみや、諦めや、恐怖が顔中に貼り付いている。そんな中で、おそらくは無理をして浮かべられたソレは、あまり成功してるとは言えない。  目は絶望に淀んでいたし、それでもわずかな希望に縋るように、目の端には涙が出て1粒だけ留まっている。口元はキュッと結ばれて、痛みに耐えているかのようで。  誰が見てもこの微笑みを、微笑みとは言えないだろう。あるいは一瞬そう見えても、強い違和感を抱くだろう。 「紗夏。柚陽(ゆずひ)はアンタの事を気に入ってるよ」 「それは、もしかしたらそうだったかもしれません。自惚れるくらいのものが、あったかも。でももう、そうだったとしても過去形です」 「……オレは柚陽がそんなヤツだとは思えないけど」  それは陸斗にとって痛みこそ伴うものだけれど、陸斗は思い返す。柚陽が今までにしてきた事。柚陽が語る己の恋愛観。  マンションで怯えきった海里(かいり)の言葉。  ……海里の様子はともかく、他は紗夏だって知ってるだろう。紗夏の方が知ってるぐらいだろう。 「だから紗夏。柚陽を信じてやって」

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