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滑稽な話だと思う。
自分の恋人を信じられず、まんまと目論見にハマった人間でありながら、人には「信じて」と語るなんて。
なんと滑稽。なんて図々しい。これほどこの言葉が似合わないのは、きっとオレだけっすね。陸斗 は内心自嘲する。
それも陸斗にとって自分の恋人を傷付けようと狙い、自分を騙した相手を「信じて」と言っているのだ。それは、大分歪だろう。……かえってオレに丁度良いっすわ。
「紗夏 の知ってる柚陽 を、信じて」
「……でも、ソレはあくまで、柚くんの意志です。柚くんが自分の考えで他の人間にもオレをどうにかさせるのとでは、結果が同じでも別物ですよ」
悲しそうに言いながらも紗夏の目がわずかに揺れていた。「もしかしたら」と縋り、期待した結果崩れる事を恐れ、縋る自分を浅ましいと叱責する。
紗夏が浮かべた表情は、雄弁だった。今なら聞き入れてくれるかもしれないと、陸斗は思う。
無論、過程については話せないけれど。
「別物だけど、柚陽にとって紗夏を嫌う理由にはなり得なかったんすよ。柚陽は紗夏を心配して、自分が席を外す間、オレに紗夏と一緒にいてほしい、って頼んだんすから」
「……うそ、です、よね?」
「こんな嘘、つかないっすよ」
陸斗とて微笑めるような心情ではない。だからこそ大分歪だとは思うけれど、それでも少しは安心してもらえないだろうかと、懸命に微笑んだ。
果たして、成果はあったのだろうか。
「柚くん……」
紗夏はぽつり、小さく呟いて、目の端の涙は、頬を伝った。
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