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 病院内でケータイの電源を落とさない事をマナー違反だと思わなかったワケではない。それでも誰かから連絡があった時直ぐ気付けるようにしておきたくて、敢えて入れたままにしていたのだ。  そこまで大音量ではないと言っても突然響いた音に驚いたのだろう、ぴくっと紗夏(さな)の体が震えた。これはあとで平謝りすべき案件っすねぇ。思いながらポケットのケータイへと手を伸ばす。  その頃にはすっかり紗夏も回復したのか、元よりそれほど大きな驚きではなかったのか。陸斗(りくと)の行動を追いかける紗夏の目は、期待にキラキラと輝いている。多分、柚陽(ゆずひ)からであるかと期待しているんだろう。  正直、陸斗もそれを期待していた。普段ならゾッとさせられるけれど、柚陽が明るく弾んだ声で「終わったよー。今から行くね」なんて、あっさり復讐の完了を告げる事を。  しかし電話の相手は(みなと)だった。  液晶に表示される名前に、期待と落胆、それから不安が一緒くたに混ざり合う。  海里(かいり)のことだったらと思うと不安だが、病室で許可なしに出る事は出来ない。呼び出し音はもう十数回鳴っているだろうに、切れる気配はなかった。  それが余計に陸斗を不安にしていく。 「電話、出ないんですか?」  電話に出ない陸斗を不思議に思ったのだろう、紗夏から聞いてくれた事に安心しながら、「出て良いっすか?」紗夏にケータイ画面を示して問い返す。「港からなんすけど」と口でも通話の相手を伝えて。 「はい、オレに構わず出てください。港さんからとなればなおさら、心配でしょう?」  バレてる。  なんとなく気恥ずかしいけれど、電話には出たかったからそう言ってもらえた事に感謝しつつ陸斗は通話ボタンをタップした。  「もしもし?」なんて定型句を言う暇なんてなかった。それを掻き消す用に、電話向こうの声が叫ぶ。 「陸斗か!? 大変だ、柚陽が病院に運ばれた」

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