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「港 さん、なんでした? って、海里 さんのことかもしれないのに、オレが聞いたらおかしいですね」
陸斗 が電話を終えたのを確認してから、紗夏 は小さく首を傾げる。もしかしたら会話の内容を薄々ながら察されたんだろうか。そう思って心配になるけれど、紗夏の表情から考えるに、その可能性はなさそうだ。
もっとも紗夏はこうした演技に長けていそうな聡い子だから、すべて把握しているのかもしれないけど。さすがに現状で演技を見せるだけの余裕は無い、はず。
そんなことを信じたいと思ってしまうあたり、残酷なのかもしれない。浮かんでしまった自分の考えに思わず苦笑を浮かべるも、紗夏に気付かれないように、やわらかい微笑みに変える。
とは言っても鏡に向かって喋っているんじゃないから、苦笑を貼り付けたまんまかもしれないし、浮かべた微笑みは歪かもしんないっすけど。
そっと首を振って「オレが聞いたらおかしい」の部分への否定を、先にはっきりと示しておく。
「そんなコトないっすよ。誰だって自分の前で電話をされたら気になるし、病室で電話するなんて非常識かましたのはオレっす。紗夏はもっと怒って良いんすよー。それに、港たちのことじゃ、紗夏も無関係じゃないっしょ?」
「この状況で港さんからの電話を無視しろって言えるほど、オレは鬼じゃありません。でも無関係じゃないって……ああ、確かに。約束がありますもんね」
「確かにそれもあるっすけど」
紗夏が柚陽 と結ばれるように協力する。代わりに海里を危害から守る。その約束がまるきり関係ないと言ったら嘘になる。嘘になるっすけど、でももう、オレも、きっと港たちもそれだけじゃないんだ。
苦笑を浮かべて告げた陸斗の返事は紗夏にとって予想外だったようで、きょとんと陸斗を見つめる。「それだけじゃないなら、なにがあるんですか?」口には出していないけれど、まんまるになった紗夏の目は、雄弁だった。
「約束のこととか、柚陽が落ち着いてくれるだろうとか。ソーイウ契約だの、こっちの打算だのとは別に、やっぱオレも港も波流希 も。きっと海里だって、紗夏を気にしてるんすよ」
紗夏はますますきょとんとして、目のまるみを更に増して。
それから小さく、ぷっと吹き出した。バカにするようでもない。無理をしているワケでもない。思わず零れてしまったというようなやわらかい微笑みは、あるいは、病室という場には、この状況には似つかわしくないのかもしれない、けれど。
「もう。全員が全員、ドの付くお人好しが過ぎますよ」
そうやってくすくす笑う紗夏を見られて、良かったと思った。
だからこそ、柚陽のことは隠し通さなければいけない、とも。
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