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「ごめん、覚えてないや。オレのツレっていうと、そんなにいないと思うんだけど」
時間にして3分くらいだろうか。その間たっぷり考え込んだ柚陽 は、肩を竦めて軽く首を振った。
そんな柚陽の言葉に、落胆よりも怒りよりも、なにか引っかかるものを感じた。なんだろう。柚陽の言葉を脳内で再生すれば、その違和感の正体は、すぐに分かった。
ツレは「そんなに」いない。
たとえば陸斗 のことは忘れてしまったようだけど。それなりに沢山いた友人たちも忘れてしまったようだけど。でも、覚えている何人かはいるらしい。
その仮定に焦りさえ感じて、でも焦ってはいけない、こういう時こそ冷静でいなければと言い聞かせる。
「うーん、誰だろう? キミみたいな派手なイケメン、1度見たら忘れられなさそうだし、そーいう子と付き合っていそうなタイプは……いないかなぁ」
自分のツレを思い起こしているのか、陸斗には馴染みのない名前を呼びながら記憶を辿る柚陽の様子に、けれど陸斗は半分ほど、驚いていた。「柚陽オレの事そんな風に思ってたんすか」という驚き。
友人として過ごしてきた間も、恋人として過ごしてきた間も短くはなかったのに、知らなかった。
「……うーん。ありえないけど、紗夏 の知り合いかなぁ。あの子、時々趣味がおかしいっていうか、年上ホイホイというか……うーん、キミみたいな派手っ子に声を掛けて仲良くできそうなの、紗夏くらいなんだよねー」
海里 たちの名前は出なくて、でも、紗夏の名前は発せられて。
その時、どくりと、陸斗の心臓は跳ね上がった。
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