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「代用品?」
白々しく聞こえなかっただろうか。不安に思いながらも陸斗 は、どこか不思議そうにそれを復唱した。
どうやら自然な返し方を出来たらしく、柚陽 は少しの間をおいて、「あ、そっか」納得したように呟いた。その顔がどこか悲しげで、柚陽への恨みは忘れていないのに胸が痛んでしまう。
「普通の人はきっと、代用品なんて作らないし、代用品って言い方もしないんだよね。特にキミはすっごくモテそうだもん、縁ないか」
あははー、なんて笑いながら言う柚陽に陸斗は反応に困る。幸い、と言うか柚陽は柚陽で、「代用品」という聞き慣れない言葉に陸斗が困惑したんだと思ってくれたらしい。
少し気まずそうに目を伏せて、頬を掻きながら、「代用品っていうのはね」そう切り出した。
「うーん、当て馬、って言えば良いのかなぁ。なんにせよ、嫌な言い方だよね。オレには大好きな人がいたの。ずっと大好きで、絶対付き合いたくて。だけどその人はオレを好きにはなってくれなかった」
海里 の事だとすぐに気付いて、けれど違和感を抱く。さっき柚陽は自分のツレの名前に海里たちを一切挙げなかった。
海里と柚陽はそれなりに距離が近いはずなのに。
片恋の相手の名前を出したくなかったのか、記憶が混濁しているせいなのか。分からないし、聞くことではないんだろう。……どうしたって警戒しちゃう話題ではあるっすけど。
「でも諦めきれなかったオレは、オレに言い寄ってくる子に、代わりになってもらったんだ。でもどの子も違ってて。この子なら、って思えたのが紗夏 だった。他の子には求められても与えたくなかった、オレの本当の愛情を、大好きな子にしか向けたくなかった愛を、紗夏には向けても良いって思えたんだよ」
ぎゅっと、手を、また拳の形に握ったのは意識してなのか、無意識になのか。無邪気な笑顔で「壊す事が愛」だと語り、うっとりと「柚くんに壊されたいんです」と語った2人を思い出す。
歪んでいたけど、きっと2人にとっては本物の愛であろうソレを。
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