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「紗夏 には転んだ時に頭を打って記憶が混濁してるって伝えておいたし、もし紗夏が連絡に気付かなかったらそう言っておいて」という伝言を承って、陸斗 は柚陽 の病室を後にした。
病室から出る陸斗をベッドの上で見送った柚陽は、あの無邪気な笑顔を見せることはなく、それでも穏やかに微笑んでいた。「ああ、柚陽の顔っすね」なんて、前にも思った事を改めて思いながら、「お大事にするっすよ」その言葉は、すんなり出てきた。
さて、1度紗夏の病室にも顔を出しておこうか。柚陽が自分の状況を、多少嘘を交えて伝えた直後だ。様子は気になるし、もし連絡に気付いていないのなら柚陽から承った伝言をする必要がある。
紗夏の様子を思うと多少気は重いが、適当な言い訳を本人了承の下ゲットできた以上、このまま放置しているというのも可哀想だ。いつまた「もしかしたら柚くんに捨てられたのかも」という不安が紗夏を襲うか分からないのだから。
ただでさえ隼也 に体も心もオカされているような現状、余計な負担を掛けたくはない。まあ、柚陽の怪我も精神的負担にはなるかもしれないけど、「柚陽は紗夏を嫌ってない」っていう事実があるだけでも、少しはマシになるはずだから。
そんな風に自分に言い聞かせて、陸斗は「オレっすよ。陸斗っす」。告げてから紗夏の病室の扉をそっと開く。
扉の方を少しだけ怯えつつも見つめた紗夏の目が、複雑そうな感情を宿していた。手にはケータイが握られているから、多分柚陽の連絡を自分で確認したんだろう。
陸斗が席を外していた間紗夏の様子を見てくれていた波流希 が、陸斗にそっと微笑みかけた。
「陸斗さん、柚くんの所に行っていたんですね」
「……そうっす。ごめんね、隠していて」
「いえ。陸斗さんがオレの事を考えてくれているっていうのは、分かりましたから。柚くん、オレの事は覚えていてくれたんです」
紗夏は自分が持っていたケータイを、そっと陸斗の方に差し出して微笑んだ。
綺麗な微笑みだったけど、それは「嬉しくてたまらない」「凄く幸せだ」というようなものでもなくて。ただただ寂しいだけでもなかった。思わずさっき病室で見た柚陽の泣き笑いを思い出す。
「オレが見ても良いんすか?」
差し出されたケータイの真意を掴みきれずに訊ねれば、紗夏はその微笑みを浮かべたまま、小さく頷いた。
「はい。是非、陸斗さんに見てほしくて」
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