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 陸斗(りくと)さんに見てほしくて。  その言葉につられる様に、陸斗は紗夏(さな)のケータイを受け取った。  伝言を頼まれている身だ。一応大まかな内容は分かっていても他人の、それも「柚陽(ゆずひ)が紗夏に送った」メールを見るのは、どうしたって緊張する。  指先の震えでケータイを落としてしまわないように注意しながら紗夏のケータイをしっかりと持ち、開かれたままの画面へと目線を落として。  陸斗は、あげそうになった声を、どうにか抑え込んだ。  それでもそれは、あくまで「悲鳴の類」をあげずに済んだだけで、「柚陽……」ぽつりとその名前を呟くことだけは、止められなかった。  やっぱり、アンタは。 『体調は大丈夫? あまり無理はしないで、医者や看護師に甘える時は甘えるんだよ。オレはちょっとドジやっちゃって転んで、なんか記憶に混濁がある、とかでさ。少し入院中なの。言われてみればなんか、見舞客にも違和感があったなぁ、って感じ。だからお見舞いには行けないかなぁ。ごめんね。でも、紗夏のことを忘れてなくて、オレはほっとした。それでさ、紗夏に退院したら聞いて欲しい事があるんだ。時間、取ってもらえるかな?』  聞いて欲しいことについては書かれていなかったけれど、想像なんて簡単についてしまう。あの柚陽を目の前で見ていればなおさらだ。  紗夏は想像が付くのか、あるいは期待しないようにしているのか。それともまるきり想像できないのか。もしかしたら柚陽がケガしたって衝撃の方が大きいのかもしれない。なんとも言えない微笑みを浮かべたままに、文字通り「あわあわ」してる。今の紗夏を表すのに、これ以上適切な表現はないだろう。 「柚くん、ケガしたって。でもコレって、コレって。オレ、えっと、どうしたら」 「……それは紗夏が決めることだと思うっすよ。でももし、紗夏がまだ柚陽を好きなら、退院まで信じて待つのが1番だと思うっす」 「も、もし、もう用済みだって言われたらオレ立ち直れません」 「大丈夫だと思うよ? 柚陽はわざわざそんな凝った方法で悪意を伝える子じゃないでしょ?」  ……なんつーか、フォローの仕方としては「どうなの?」って感じっすけど。それでも紗夏を落ち着かせるには効果抜群だったらしい。まだ微笑みは複雑そうだったけど、少なくともさっきまでの「あわあわ」は治まった。  陸斗が返したケータイを大切そうに持って、画面をやさしく撫でる。 「……そうですね」  紗夏が小さく微笑んだ。どこか楽しそうにも見える微笑みだった。

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