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 陸斗(りくと)が病院に向かった頃より紗夏(さな)の様子は回復していたし、落ち着いているようにも見えた。もちろん、油断なんてできないし、いつ隼也(しゅんや)が奇襲を仕掛けてくるかも分からない以上、1人になんてできない。  柚陽(ゆずひ)には結局「復讐」の結果を聞けずじまいだ。あそこで聞けるほど陸斗とて図太くないし、もしかしたら、こてんと首を傾げて「復讐?」なんて言われて終わりかもしれない。だから隼也が「どう」なったか分からない。なにか目に見えた大ケガを負ったのであれば、(みなと)あたりから連絡が来そうだけれどそれもないし。そうなると「隼也は復讐から逃げて、紗夏への奇襲の機会を窺っている」っていう最悪の場合にも、備えておくべきだ。  紗夏は「オレ、もう大丈夫ですよ? いざとなったらナースコールだってありますし」なんて陸斗と波流希(はるき)に告げたけれど、陸斗も波流希も「はい、そうですか」なんて言って帰るつもりには、まるでなれなかった。 「そうだね……。心配だからって大勢が病室にいたら、紗夏くんの気も休まらないだろうし。今日はオレが病室にいるから、陸斗くんは帰って良いよ」 「いや、オレだって紗夏が心配なんすけど……」 「陸斗さんはオレより海里(かいり)さんを心配してください。そもそも陸斗さんって、そういう人でしょう?」 「……う」  返す言葉もない。  波流希だって紗夏の手前言わないだけで「海里の方を心配しなよ」くらいには思っているだろう。と言うか、わざわざ指摘されずとも陸斗の中に常に海里はいて、気に掛かるし、罪悪感だって居座っている。  でも紗夏を放っておけるかと言われれば、それはイコールではないワケで。 「大切なものを欲張り過ぎちゃダメですよ。特に陸斗さんみたいなタイプはなおさらです。好きな人のために、まっすぐに、なんでもしてあげないと」 「本人の前で言うのもアレっすけど、それは大丈夫っす。オレがなんでもしたいのは海里にだけ。ただ、やっぱ顔見知りを放っておけるほど、オレだって図太くはないんすわ」 「それなら、お見舞いに来てください。夜も心配してくれるなら、週1くらいのお泊りをお願いします」  本人にそこまで言われてしまって、「でも」なんて返せるほど図々しくもない。押し売りがどれだけうざったいかは、陸斗だって知っている。  波流希も傍にいてくれると言うし、心配はないだろう。結局陸斗は「お大事にするっすよ」なんてそんな言葉をここでも告げて、紗夏の病院を後にした。

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