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「ったく。お前がオレの居場所を教えたから厄介な相手に遭遇しちまっただろーが。オレは柚陽 のこと教えてやったのに」
街灯に照らされた隼也 の顔に浮かぶ表情から怒りが強くなる。トントンと片手でナイフの刃をもてあそびながら。
それは流石に不気味っすねぇ。怖いし、下手に近付ければ大ケガでも済まなそうだ。つーか本人だってタダじゃ済まなそうなのに、怒りが混ざりつつもへらっと笑っているのが、やっぱり不気味さを増していて怖い。
「……そりゃあ、まあ。アンタと柚陽を天秤に掛けて紗夏 の安全性を考えれば、柚陽にアンタの場所を教えるでしょ。オレは紗夏を放っておけないし」
内心の怯えは、確かにある。逃げ出したいし。
だけどどうにかこうにか、平然と振る舞ってみせる。却ってぎこちなく浮かべた微笑みが、「ソレ」らしくなっているのかもしれない。
まあ、それならそれで良いっす。そもそも隼也 が、今の隼也が、これくらいで動じるとは思えないっすけど。良くも悪くも。
「あ? だって紗夏はオレと一緒の方が良いに決まってるだろ。アイツなんかとは引き離さないと。もっと早くから引き離して、オレがきちんと管理してやれば良かったのに」
ガリッ、と、ナイフを持ったままの手を口元に引き寄せて親指の爪を噛む。その弾みで頬を切ってしまおうと気にならないって言わんばかりに。
それどころか、柚陽への苛立ちと、ある意味「自分自身への後悔」から、そんなこと気にしていないとでも言うように。
「……なあ? 陸斗も分かるだろ? オレと柚陽、どっちが正しいかなんて。どっちが紗夏の傍にいるべきか、なんて」
怒りと愉悦を綯交ぜにして、隼也は笑う。構えられたナイフが暗に語っていた。「どう答えるのが正解か分かるよな」なんて。
だからこそ陸斗は笑い返した。もちろん、恐怖は根付いているけれど。口元が笑みの形を描いたのを自覚する。
「分かってるっすよ。お前と柚陽とじゃ、断然に柚陽じゃねぇっすか」
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