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 痛い。痛くて熱い。  遠退く意識の中で、ぼんやり思う。ああ、海里(かいり)も痛かったんすかねぇ。なんて。  自分はソレだけのことを海里にしたんだろうって。だから刺されても当然と言えば当然なんだけど、やっぱりどうせ刺されるなら、海里とか、せめて(みなと)波流希(はるき)っすね。  きっと紗夏(さな)も痛くて、辛くて。  つーか一応せめてもの抵抗で急所は避けれたと思うんすけど、え、大丈夫っすよね、これ。  意識がぼんやりしているせいか、思考も飛び飛びで、纏まらない。腹のあたりが熱いのに段々寒くなってる気がするのは、まあ、刺されたからっすよねぇ。  数日前に家の前で嗅いだばかりの鉄錆のニオイが、かすかにする。多分血の量はあの時の比じゃないけど、嗅覚が鈍ってるんだろう。  陸斗を正確に狙っていたとはいえ、やはり冷静さは欠いているのか。それともソレを把握した上で関係ないとばかりに“そう”しているのか。  明らかに重傷の陸斗を見てもなお、隼也は刺すのを止めない。街灯に照らされるアスファルトが、少しだけ濃くなったのが、ぼやけていく視界に映る。 「お前がこうなら、海里たちも厄介かな……」  意識がぼんやりとしていく中で、その声が正確に聞こえたのは、きっと理由なんてないんだろう。理由なんてない。理屈じゃない。  ただその声に、抜けきっていた力が一瞬だけ戻った。今まさに隼也が抜き取ろうとしたナイフを、阻む様に隼也の手を掴んで止める。ギロ、陸斗は心底冷たい目で、怒りから冷え切った目で、隼也を睨んだ。  ヒッ、と、隼也から悲鳴のような音が漏れるのが、僅かに聞こえた。 「海里を危ない目に遭わせたら、承知しねぇっすよ」  それを最後に、陸斗の意識はふつりと切れた。

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