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赤色のあとさき

 そのあとで陸斗(りくと)が聞かされた話によれば、アレから1週間くらい時間が経っていたらしい。ちなみに、まだ隼也(しゅんや)は見付かっていないだとか。とりあえず紗夏(さな)柚陽(ゆずひ)も無事だと聞かされたことで安心する。なにより、海里(かいり)に危害が加えられてなくて良かった。  腹部は変わらず鈍い痛みがあるけど、安心できる。 「……いや、安心するなって」  海里にツッコまれて反応に困り、仕方がないので苦笑を1つ。ちょっと腹が引き攣るような痛みがしたけど、顔に出さない様に気を付ける。  それでも隠しきれていないようで、海里の顔が分かりやすく泣きそうになって、「……痛くないか?」心配そうに問われた。 「大丈夫っすよ。……心配掛けたっすか?」 「当たり前だろ。お前が病院に血まみれで運ばれたって聞いて、ほんと、ほんとびっくりしたんだから」 「ごめんね。でもオレとしては海里が無事で良かったっすよ。それに海里が呼んでくれたから助かった気がするんす」 「……陸斗はさ、オレなんかで良かった?」  ふと海里が目を逸らして、不安そうに聞く。目覚めた時からよく見ていた、あの顔とは違う。泣きそうな顔。実際にぼろぼろと涙を零している泣き顔。「良かった」と陸斗の目覚めを本気で安堵して喜んでくれている顔。  それとは違う、不安そうで悲しそうな顔を伏せて、海里はぼそっと呟いた。 「待ってるのも、待つのも、呼ぶのも。きっと陸斗ならもっと良い人が見付かる。オレみたいに歪んでるだろう人間じゃなくて。最近は愛想も良いし、やさしくなったから、オチない人間はいないだろうし……」 「海里もなかなかにおバカっすねぇ。今のオレに資格があるかはともかく、説得力があるかもともかく。オレは海里が良いんすよ」 「陸斗……」  不安でいっぱいだった海里の目に、安堵の色が宿って、潤む。  そんな海里を見て、「また泣かせてどうするんすか」「幸せにしたいのに心配かけて」なんていう自分への怒りや呆れと同時に、どこか安堵や嬉しさのようなものも抱いてしまって。  「海里」。応えるように陸斗が名前を呼ぶ声に、 「おい、そこの病人……ケガ人か? バカップル」  (みなと)の呆れきった声が重なった。

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