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……確かに陸斗 も海里 もケガ人ではある。しかしそれにしても「バカップル」は無いんじゃなかろうか。
それもアレだけの事をしてきたと知っている港 が、陸斗に向けて口にする言葉とは思えない。
カップル扱いされるのも、なんなら海里とならバカップル呼ばわりも不快じゃないし、以前ならすんなり受け入れていただろうけど。そんな陸斗の葛藤は、よほど分かり易かったんだろう。
「つーか、陸斗の場合はただのバカなのか?」なんてからかう様に言いながら、港は病室の中へと歩を進める。表情がいくらか晴れやかに見えるのは、気のせいっすかね?
「海里が、お前が良いって言ったんだから、罪悪感でウジウジするより、その分海里を大事にしろって。海里も海里だからな? 陸斗はお前が良いって言ってるんだから自信持てって」
「努力はするっす」
「努力する」
陸斗の返答は海里と見事に重なって、思わず顔を見合わせて笑った。そのせいで腹の傷が多少引きつって、ピリッとした痛みを訴えたけど無視だ。
そもそもそうした痛みなど初めから範疇にないくらい、海里と一緒にいるこの時間は様々なもので陸斗は満たされていたのだけれど。
港の方はそんな陸斗たちを微笑ましさと呆れ、半々の笑顔で見つめた後、「あー、そうそう」なんて、わざとらしく、ぎこちなく切り出した。
「海里も陸斗も、聞きたくなくなったら直ぐ言えよ?」
そんな前置きに、さっきまでのそれでも和やかと言えた時間は強制終了。空気が冷たくなって、嫌な汗が伝う。
ごくりと飲んだ唾は、誰の音だろうか。
「柚陽 と紗夏 が退院したんだけどな、」
それだけならまだ、そこまで身構える話ではない。柚陽については思うところもあるが、紗夏も退院となると、素直にめでたいだろう。海里にとっては聞きたくない名前かもしれないが。
しかしこの程度で済まない事は、港の言葉の切り方や、気まずそうにあちこちに飛んでいく目線で分かった。
問い詰める事はせず、ただ話の続きを待つ陸斗と海里の様子に、港は1度深呼吸してから、再度、まだ少し躊躇いがちに口を開いた。
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