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「……隼也 が接触してきたらしい」
隼也。潜めた声で言われて、反射的に陸斗 は顔をしかめてしまう。強い恐怖はないけれど、やっぱり気分が良いものではないし、苦い記憶っていうのは残るのか、腹の傷がズキッと痛んだ。
視界に入った海里 の表情も沈んでいる。え、まさか隼也、海里にも手を出しやがったんすか。刺された直後、意識を失う中で聞こえた声が今になってぼんやりと思い出される。「海里たちも厄介かな」。少なくとも目立つ傷はなかった、けれど。
かといって本人に聞く事も出来ない。海里の嫌な古傷を抉る事なんてしたくないし。ただでさえ柚陽 のことは海里にとって傷だっていうのに。
「オレはなにもなかったよ。隼也はオレのとこにも、港たちのとこにも来てない。でも、陸斗を刺した相手を良い感情じゃ見られねぇって。……アイツ、あんなヤツじゃなかったのにな」
「海里の友人でもあったもんね……」
「つーか、今はお前だよ、陸斗。お前が話を聞くのが辛いなら、後にしてもらうぜ? な? 港 」
「海里は相変わらずだよなぁ。……まあ、オレとしては無理強いするつもりもねぇけど」
港に無理強いするつもりがないっていうのは分かるけど、でも、港も相変わらずっすよ。多分ここで今すぐにでも聞かせたい話があったとしても、海里が「後にしてくれ」って言ったら聞いちゃいそうっす。
そう思えば自然と笑みも零れてきて、いくらか腹の痛みも治まった気がする。いや、笑った事でズキッとした痛みが生まれたけど、さっきとは別物だ。
つーか、紗夏 たちの事を考えれば、こうやって呑気に笑っていられる状況でもないだろうし。
「オレは大丈夫っすよ。つーか接触してきた、って、紗夏たちは大丈夫なんすか?」
「ああ。ケガとかも一切なかったって。ただまあ、派手に喧嘩を売られはしたみたいだけど」
あの隼也の様子と、普段の2人を見れば、顔を合わせればそりゃあ喧嘩にはなるだろう。むしろ「喧嘩」で済んだだけ良かったのかもしれない。
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