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「……は?」  隼也(しゅんや)の言葉に、理解も感情も追い付かなかった。ただ口だけが、その「理解し難い」「最悪な言葉」に拒否反応を示し、陸斗(りくと)の理解を待たずして、反射的にそう返す。  対する隼也は飄々としており、陸斗の反応に、ぷぷっ、と笑ってさえみせた。 「お前、今日はそればっかだなー。大丈夫か? 頭、回ってる?」 「……アンタの言葉が理解し難いんすわ」  まるで昨日見たテレビの話でもするかのような、気楽な口調で。バカ話をするかのように面白おかしく。  明らかに話の内容とは不釣り合いであると、どれだけ思考がマヒしていても分かる声音で隼也は問い掛けた。  ……コイツの言葉を即座に理解出来なければ、「頭が回っていない」というのなら。もう思考なんて放棄しても良いかもしれない、陸斗は思う。  しかし、天秤に海里(かいり)を引きずり出された以上、そうも言っていられなかった。  動けよ、オレの頭。多少の気持ち悪さも、不可解さも、この際全部飲み込んでしまえ。 「そっか? 単純だと思うんだけどな。お前には月藤(つきとう)を壊してほしい。聞いてくれないなら、代わりに海里が壊れる。単純だろ?」 「海里は関係ないじゃないっすか。……それとも、なに? 壊す快楽に目覚めちゃったの?」 「あんま不愉快な事言うなっつーの! あんなもん、楽しくもないし、気持ち良くもねーよ」  隼也の目が、嫌悪に細められる。吐き捨てる声音には、よっぽどの役者だっていうのでもない限り、嘘は見受けられない。  声音にもはっきりと怒りだけが感じられて、隼也の今の状態を考えると、感情のままに刺されなかった方が却って不思議なくらいである。 「じゃあ、なんで壊す事にこだわるんすか」  口で言って納得するような人間ではない。隼也を見てくれば明らかな事実なのだが、海里に危険が及ぶかもしれない今、無意味と分かっている手段とて縋らなければいられなかった。  加えて、純粋な疑問もあったかもしれない。何故こうも否定的でありながら、紗夏を壊す事にこだわっているのだろう、と。  陸斗にとってはワケの分からない状況であったが、隼也にとっては「分からないヤツが分からない」状態だったのだと思う。今度は隼也が「は?」間抜けな声を漏らして、きょとんとする番だった。 「お前、そんな事も分からないのか? マジ、頭大丈夫かよ」 「分からないし、その考えを理解しちまったら、そっちの方がヤバイと思うんすけど」  隼也は、「それしかないだろ?」と心底から呆れきった顔を見せて、きっぱりと言い切った。 「躾だよ。子どもが悪いことをしたら、叱るだろ? それと同じ」  一切の迷いなく、ソレが当然だと言わんばかりに、はっきりと。

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