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 あまりに堂々とした立ち居振る舞いは、時としてソレが「正しい」のだと錯覚させられる事がある。今まさに、「当然の躾だ」と言い放った隼也(しゅんや)の態度がソレだろう。  幸いと言うべきか、そのあまりの内容に陸斗(りくと)は、錯覚より先に嫌悪を抱いたため、流される事はなかったが。  躾。  なるほど、悪いことをしたら叱るというのは正しいだろう。しかし隼也の語るソレは、とてもじゃないがその域を逸脱しているし、そもそも隼也が紗夏(さな)に躾を行う資格なんて無いだろうに。  隼也は紗夏の親でもなければ、恋人でもない。  紗夏と柚陽(ゆずひ)の主張を信じるのであれば、「はるにぃ」的な存在でもないはずだ。 「悪いことをしたから叱る。なるほど、その言い分は納得っすよ。でもアンタが紗夏にソレをする資格はないし、壊すのは躾の域を逸脱してると思うんすけど」 「オレが月藤(つきとう)の人間関係を見守ってたんだ、変なヤツと付き合ってるのを叱るのは当たり前だろ? それで? どうするんだ? 陸斗。月藤を壊してくれんの? それとも海里(かいり)が壊れたのを見たい?」  話しても通じるとは思っていなかったが、再度、今度は急かすように答えを求められて陸斗は思わず舌打ちをした。  隼也はといえば、ナイフを天井に示したまま「海里は簡単に壊せそうなんだよなぁ」「肌の色、すげー白いから血も映えるかも」「で、顔よりは髪にぶっかけるべきか」そんな聞くに耐えない言葉を、ぶつぶつと漏らしている。  罠かもしれない、とは思う。  でもそう思ってももう、海里を天秤に乗せられた以上、陸斗にはこう答えるしかなかった。 「……分かった。分かったっすよ、紗夏を壊してやるんで海里には手を出さないでほしいっす」

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