483 / 538

この手は幸せにできないんだろうか

 隼也(しゅんや)の提案を了承したとはいえ、陸斗(りくと)には紗夏(さな)を壊す気など、微塵もなかった。  友人たちから「変わった」と口々に言われようと、人間根本まで簡単に変わりはしないものだ。それは陸斗とて同じ事。  根本、すなわち「基本何事にも無関心」という陸斗の性分を下敷きにした「好きな人のためなら、なんでもやる」という恋愛観も、結局のところ変わっていないのかもしれない。  海里(かいり)を天秤に乗せられた以上、隼也の「お願い」を聞き入れる他、道はなかった。  隼也が去って1人になった病室で、じくじくと痛む気がする腹を抑えながら陸斗は1人呟く。 「まったく、してやられた、って感じっすねぇ。さすが海里とオレの友人。弱点なんてお見通しなんすね」  なるほど、第三者の立場でいられるのなら「見事」とさえ言える手腕だろうが、当事者になってしまっては、顔をしかめる事しかできない。  とは言っても陸斗には、本気で紗夏を傷付けるつもりはなかった。  事態は(みなと)たちに報告している。ただ、柚陽(ゆずひ)達には伝えていない。1番伝えておくべきなのだろうが、どうしても躊躇われた。  紗夏に対しては、本人だから。  柚陽に関しては、彼が折角紗夏と掴もうとしている幸せを奪うのも、もし本当に記憶が混濁しているのならば混乱させるのも良くないだろう。  だからと言って放置はできない。どうにかしなければ。  陸斗はケータイごと思い切り自分の手を握りしめた。

ともだちにシェアしよう!