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「大丈夫かよ、お前」
電話口から聞こえてきた声は切迫していて、思わず苦笑が漏れた。もちろんそんなことしている場合じゃないというのに。
港 はなんだかんだとやさし過ぎるのだ。本来であれば陸斗 の心配なんてしなくても良いだろうに。まあ、港の場合は海里 の言葉を、それこそ「絶対遵守」と言わんばかりの勢いでいるから、かもしれないけれど。
「オレは本当大丈夫っすよ。つーか、海里は無事っすか? アンタらには危害加えてきてない?」
どちらかと言えば。いや、どちらかと言わなくても危険なのは海里たちの方だ。
確かに思いきり刺されたのは陸斗で、頭を打ち付けたと思えるのは柚陽 で。ケガの度合いとしては、こっちの方が重傷に見えているだろうけれど、今の隼也 が狙っているのは海里だ。紗夏 を壊す意思が陸斗にないとバレれば、ためらいなんてなく、ナイフを振り下ろすだろう。もしかしたらソレより最悪なことをするかもしれない。
いつも一緒にいる港や波流希 は、ソレに巻き込まれる可能性だって高い。今の隼也は明らかに冷静さを失っているし、1人2人巻き込もうと気にしないだろう。多分。
そうなると心配になるのはどうしたって彼等の方だ。
「ん、大丈夫だ。海里も問題ねぇよ」
「そっすか。とりあえずは良かったっす。迷惑かけると思うけど、海里のこと、お願いするっすわ」
「はっ、その辺は抜かりねーよ。お前は安心して、自分の身を守ってろって。海里のことだ、自分が傷付くよりお前が傷付いた方がしんどいんだからさ」
「……つくづく、オレにはもったいない子っすわ」
元は柚陽の差し金だったと言っても、ソレを選んだのは陸斗だった。
海里を壊そうとして、傷付けて、良くしてくれた紗夏を危険に晒して、しまいには柚陽も巻き込んでいる。記憶混濁が嘘にしても、軽いとは言えないケガを負っている柚陽を。
最初は「海里を幸せにしたい」「海里と幸せになりたい」って思っていた筈なのに。騙されているとは言っても、同じように柚陽との幸せも願っていたのに。
ミシッ、と端末が抗議の音をあげるのも、電話の向こうに雑音が入るかもしれないというのも気に留めずに、陸斗はケータイを強く握り締める。
つくづくこの手は、人を幸せに出来ないみたいだ、と。
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