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オレは大丈夫。その言い方になにも感じないほど、陸斗 とて鈍感ではない。落ち込んでいる様子の紗夏 を見ればなおさらだ。
「オレは」なんて明らかに言外の意が込められた言い方。そんなの、
「ただ、柚くんと連絡が取れなくなってるんです」
……「柚陽 には何かあった」と言っているようなものじゃないか。
紗夏の言葉に確信を得てしまって、ずきりと陸斗の胸は痛む。
隼也 はなにも言ってなかった。だからまだ「何もしていない」可能性はあるけれど、「わざわざ言うまでもない」と判断した可能性だってあるワケで。
嫌な焦りが湧き上がっていく。とは言ってもここで表情に出してしまえば、紗夏を不安にさせるだけだ。陸斗はそうした感情を抑え込んで、紗夏を励ますように微笑んでみせた。
「大丈夫。きっと大丈夫っすよ。柚陽はすぐ紗夏のトコに帰ってきてくれるっす」
「そうだと良いんですけど……」
無意識か、意図的にか、紗夏がそっと自分の包帯へと触れる。きっと歪んではいるけど、柚陽からの愛の証であるソレ。
陸斗の言葉に小さく呟いてから、「あ、違うんです」と言って、軽く首を振る。
「今日はオレの悩みを聞いてもらいに来たんじゃなくて。陸斗さんのお見舞いに来たんですって」
「ありがと。オレは大丈夫っすよ。柚陽も無理はしないでね?」
「はい」
「……思いつめたらダメっすよ?」
紗夏は賢い子だから、大丈夫だろうけど。それでも人間「好きな人」「大切な人」が関わるとどうなるかなんて、分からない。自分の信念なんて捨て去って、隼也に「復讐」した柚陽が良い例だ。
今の紗夏がどことなく“そういう風”に心配で問い掛ければ、紗夏は一瞬はっとして、それから小さく微笑んだ。……言っておいて良かったみたいっすね。
「大丈夫です。陸斗さんのおかげで元気が出ました」
まだまだ寂しそうではあったけれど、紗夏が浮かべた微笑みを見つめ返して、「気を付けて帰るんすよ」念押しして、紗夏を見送った。
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