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海里(かいり)!!!!!」  病院で走るなという当たり前の決まりも、もう遅い時間であることも、ノックも忘れて、半ば駆けこむように海里の病室の扉を開く。だいぶ乱暴な開け方だったから、海里を怯えさせてしまったかもしれない。そう思うだけの余裕は一瞬。  生理的本能が乱れた息を反射的に整えようとすれば鼻の奥に、肺にと、鉄錆のニオイが入り込む。むせ返りそうで、息を整える暇なんてなく咳き込んだ。  「ああ、嫌だ。見たくない」。そう訴える本能を無視して、陸斗(りくと)は無理矢理に視線を上げた。 「へぇ、結構早かったな? それだけ動けるなら、やっぱ月藤(つきとう)を壊すことだって出来ただろ? オレのお願い、聞く気がなかったんだな」  にこにこと笑いさえしながら言う隼也(しゅんや)を、陸斗は睨み付けようとして、けれどその表情は、中途半端に引き攣った。  隼也が力強く握っているのは、海里の手首。海里の手足は、明らかに変な方向に曲がっていて、白い肌には赤色が見受けられて。  ねぇ、待って。待ってよ、どういうことっすか。混乱する。助けたいのに体が動かないのは、こんな時に臆病になってるからだろうか。今にも刃先が刺さらんばかりに海里に近付くナイフのせいだろうか。 「り、くと、お前、バカ……」  震えた声で海里がそう言う。こんな巻き込み方をしたオレに、遂に海里も呆れたか。でもそれならそれで良いっす。なんとしてでも海里を助けないと。  そう思って隙を探ろうと、回らない頭を叱責して集中しようとしていた陸斗の思考を、 「ケガ! 悪化するだろ……。オレなんて放っておいて、血だって、出てる、し」  海里の震えた声が、断ち切った。

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